唯我独尊





寂しいとか、そんな女みたいな気色悪い感情は、
全くと言って良いほど無い。


そもそもアイツがそんな好きだとか、愛してるだとかいう言葉を吐いてきたら、
それこそ、気色悪いし、裏があるのではないかと僕は疑うだろう。


ただ、誰よりも一番、僕こそがアイツのことを知っているのに


アイツの周りにおそらく僕はいない。


それが悔しくて仕方ない。


だけど、僕には、
遠巻きにアイツを見ながら、
静かに手の中にある手綱を持ち上げて主張するくらいしか、することができないのだ。










「そこでそうしたら、連打不足で、詰みますよ」

「えっ、ちょ、もうちょっと早く言ってよ!あああああっ!詰んだーっっ!!」

イライラ

「あれほど、ごり押しは止めなさいと言ったでしょう?」

イライラ。

「だからって詰むまで放置しないでよー……」

「助言を聞かないお前が悪い。連打くらい慣れろ。」

「ヒドいっっ!!」



………どうして、コイツはここにいる。

ここは、僕の、つまり神代家の家だ。宮田は診察のために来てたから良いとして、どうして須田までもが、いつの間にか、ここにいるんだ。


そして、なぜ、宮田と仲良くゲームをしているんだ。


……………まて、状況を整理しよう。

ここは僕の家だ。


そして、家の主である僕を無視して、目の前の宮田と須田は何やら太鼓のゲームらしきものをしている。


………もう少し遡ろう。



宮田は、いつものように、夕方美耶子の診察の為に神代家に来た。


で、僕は、美耶子の体調を聞くために、宮田についていった。


ふすまを開けたら須田がいたと。



………あのバカ須田、どこから侵入した…



「えー、これリセットー?」

「そうですね、頑張って下さい」

「めんどくさぁぁぁぁっ!!」



画面に映し出される、ゲームオーバーの字。

ガックリとうなだれる須田は、コントローラーを放り投げると、畳の上に寝転がった。



「おい、須田。お前なんでここにいるんだっ!!?」


当然投げかけられる質問に、須田は首をかしげた。ウザイ。


「えー、だって、村でゲームがあるの淳の家だけだし。」

………確かに須田の言うとおり、僕の家にしかゲームは無い。

村には若いやつはあまりいないし、いても女子ばかりだ。

石田の家になら、ゲームがあるが、アイツはほとんど職場先で寝泊まりしてるから、須田が行っても、家主不在の家の中には入れないだろう。ましてや、石田はあれでも一応警察官だ。


「これクリアしてから帰るからっ。」


須田はそういうと起き上がって、またコントローラーを握る。

宮田はというと、須田からもらったのだろう、棒のついた飴を舐めながら、机の上で美耶子の診断書にサラサラと文字を書き入れていた。


「おい、須田。そこは敵が隠してくるから、全部リズムを覚えるんですよ」

「は、覚えるのっ!!?」


だいたい宮田は仕事をしながら、どうしてゲーム画面を見ている。
真面目に仕事をしろ、真面目に。


須田も須田で、美耶子の体調の事なのに、今はゲームに熱中していて、宮田の行動を気にも留めていない。


「おい、宮田、仕事をちゃんとしろ」


仕方ないから僕が注意をする。


「ああ、終わりましたよ、淳様。」


ケロッと言い放つ、宮田。
この仕事の速さが、今日ばかりはムカついた。


渡された紙に目を通す。


あんなにゲームに介入しておきながら、細かい気配りや診断まで完璧にこなされていた。
…………こういう所が宮田のウザい所なんだよっ!!少しくらいミスをしろっ!!ムカつく


「あああ、また負けたーっ!!」


須田が、涙目でうなだれると、宮田は須田に近寄った。


「どしたの、宮田先生?」


ふむ、と考える宮田を須田が覗きこむ。

………顔が近いんだよ、顔が。須田の奴、絶対に後でぶった斬る。

飴が落ちないように、軽く歯で抑えながら、宮田は小さく舌打ちした。


「ここは、もっと小さく打つんですよ。」

「えー?」


まったく何を言ってるか、分からないが、これがラスボスなのだろう。

敵と主人公の間で交わされるチープな会話は、下らないの一言につきる。

なのに、宮田と須田ときたら、真剣な目で画面を見つめる。


なんとなく、自分だけが取り残された気分だった。


「………おい、宮田」


美耶子のカルテも見終わって、暇になった僕は宮田に声をかける。


「え、待ってー、これ勝てない仕様でしょっ、絶対!」

「んなわけないでしょう。」


この僕が話しかけたのに、あいつらは華麗に無視だ。
………宮田の癖に。


「………宮田」



さっきより少し声を大きくするも、気づく気配はない。


ムカつく。

イライラする。

だいたい、宮田は、『宮田』なんだから、神代の僕が話しかけたら、返事をするべきじゃないのか?

須田のゲームの手伝いなんていつだって良いだろう。

………返事くらいしろ。馬鹿者が。


「あー、もう、無理だってーっ!!」


諦めたらしい須田が、バチを床に放り投げる。


よし、やっとか。


「みや………」

「はぁ……しょうがないですね、ほら。」


宮田が呆れたようにため息をついた後の行動に僕は目を見張った。


「は!!?」


宮田は、須田の後ろから、バチを握って、須田越しにテレビ画面をみていた。
つまりは、後ろから抱きついているような格好なわけだ。


「ほら、こうですよ。」

「おおーっ!!マジだすげぇっ!!」


……………どうしてこうなった。

だいたい須田には、美耶子がいるだろう。いや、美耶子も渡さないが。
宮田も宮田だ。

どうして、そんな体制ができる。
ビッチかお前は。


「コツは掴めましたか?」


ああ、もう、ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつく!!!


「え、じゃあ、ここ………」

「宮田っっ!!」

僕は、耐えきれずに須田の言葉を遮って、叫んで立ち上がった。


呆然と見つめる二人の視線を無視して、僕は宮田の手首を掴んで引っ張り上げた。


襖を開いて、部屋の外へ連れ出す。


「お楽しみになってねー」


状況を一瞬で理解した須田が、笑いながら手をふった気がしたが、今は関係ない。

自室に入って、宮田を壁に叩きつけた。


「っ、」


痛みに宮田が僅かに顔をしかめるが、それを無視して、顔の横に手のひらを置く。

珍しく、表情を変えて、目を丸くする宮田。


良い気味だった




「………淳様?」




まったく理解できないように、僕の名前を呼ぶアイツがムカつく。


いつもいつも、僕だけが振り回される。

しかも、アイツの意識的にではなく、無意識に。


たまには、僕だってアイツを焦らせたいんだ。


「私は神代の犬ですよ?」


無感情に、それがなんだというように首を傾げながら、宮田が言った。


…………違う。そういうことが言ってほしいんじゃないんだ。


「お前は、『僕の』何なんだっ!!?」


いつもフラフラとどこかにいってしまうアイツ。

確かに神代の犬のハズなのに、
確かに僕が手綱を握っているハズなのに、



…………どうしてかアイツを遠く感じる。


子供みたいな独占欲だなんて、当然理解している。


だけど、アイツの表の姿も裏の姿も一番よく知っているのは、この僕だ。


なんだから、せめて一番アイツの近くにいる存在になりたいんだ。


それくらい、神代にだって許されるだろう………?



「私は…、そうですね………」


考えこむように、宮田が少し言葉を止める。






「……淳様のモノですよ」






あやすように、頭の上に手を置かれた。


いつもより穏やかな瞳は、その言葉が嘘ではないんだと伝えていた。



「………………そうか、………そうだ。
なんだから、須田ばかりに構うな。第一に僕を優先しろっ!!」

「分かりました。」



いつものように宮田に命令する。


「他にはありますか?淳様。」


子供っぽい僕に呆れるように言うアイツが、やけにムカついた。

ふと、アイツが舐める飴に目がいく。


無駄に旨そうに頬張っていて、こっちまで食いたくなってくる。



「そうだな……………それ、よこせ。」



アイツの口から飴を取り上げた。

小さくなった飴を自分の口の中に入れる。
甘い、イチゴの飴だった。


「………案外旨いな。」


広がる、菓子独特のイチゴの風味が口一杯に広がる。

イライラしていた気持ちを、甘みが少しだけ落ち着けた。


「…………………」

「……………………宮田?」



なぜだか、宮田までもが落ち着いて、反応が無かった。

不思議に思って宮田の方を見ると、

真っ赤になった宮田と目があった。




「は………?」




こんな宮田の表情は初めて見たからか、僕らしくない、間の抜けた声を出してしまう。

その声に体をびくりと震わせると、ふいと顔を背けて、宮田は言った。


「………よく、そんなことが出来ますね」


小さくそう言う宮田の言葉の意味が一瞬、理解出来なかった。


…………まさかアイツ、散々っぱら僕とヤりまくったり、それ以上のことをしているくせに、飴一つで赤くなったのか?



「いや、それ以上のこと何度もしてるじゃないか。」「それとこれとは別ですよ。あなたは本当にバカですね。」

「おい、待て。バカとはなんだバカとは。」こんなにうろたえてる宮田はきっと、僕しか知らないのだろう。
なんていったって、僕だって初めて見たんだ。


むしろ知ってるやつらは、みんな斬る。


「………良いな。」

「……は、何がですか?」



なんともいえない優越感に浸る僕を、宮田が見る。
まだ少し赤い顔で、宮田は不満げに眉をよせていた。


「別に。」

「はぁ、そうですか。……んっ」


まだ顔が赤いぞ、と言ってやっても良かったが、今日の僕の機嫌は、先ほどと違い、すこぶる良かった。
から、宮田に口付けるだけにした。




アイツの言動一つで僕の気分は良くも悪くもなる。

それは非常に癪だが、つまる所、それだけアイツは、僕の前で、様々な言動をとっているということだ。


きっとこういう宮田は誰も知らんだろうし、
教えもせん。



「というワケだから、ヤるぞ宮田。」

「どういうワケだクソガキ。」



突然の僕の発言に、素に戻る宮田を無視して僕は畳に押し倒した。





唯我独尊

     



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