side:安野


始業式の次の日、今日からは、どの学年も、新学年に心をドキドキさせるとか、そんなヒマもなく、普通に授業がある。

まあ、高校生なんだから、当然って言っちゃえば、そうなんだけど、出来れば、もうちょっと先生とのイチャイチャタイムが欲しかった。


という訳で、現在4限目。
お腹もへって、久しぶりの授業に体は言うことを聞かない。

その上、今日の4限は、牧野さんの授業。

もうこれは、授業を受ける必要はありません!っていう神様のメッセージだと思う。

から、ノートには、黒板に書かれた文字なんて一つもなく、あるのは、大好きな先生の似顔絵だけである。


ああー、早く先生に会いたいっ!!


時計を見ると、あと1分くらいで授業終了のチャイムが鳴る時間だった。

先生がまだ話しているのを無視して、カチャカチャと筆記用具やら、教科書やらを片付ける。


チャイムが鳴るまで、あと、3、2、1…………





       Act8.






「はい、じゃあ、亜矢子様号令を…………って、安野さんっ!!?」



鐘が鳴ると同時に、牧野さんの自分を呼ぶ声を聞き流して、教室を飛び出した。


狙うは、歴史資料室一択!
この時間は、先生、授業ないもんねっ!!


「せんせぇー!お昼届けに来ましたー!」



先生への愛妻弁当を片手にドアを開ける。



「………安野…」



そこには予想通り、先生がいた。
頭を抱えて、ため息を一つ吐くと、私の方を見た。


「せんせぇ、どうしたんですかー?頭抱えて。風邪ですかー?」


きっと、頭が痛いに違いないっ!!先生は毎日、夜遅くまで仕事をしてるから。
あれほど、早く寝た方が良いですよっていつも言ってるのに


「安野、すこし静かにしていてくれ。」


ため息混じりに、先生は言う。

ここでやっと、自分と竹内先生以外の存在がいたことに私は気づいた。




目を丸くしながら、こっちを見ている、この白衣の人………………誰だっけ?


どこかであった覚えはあるけど、どうしても思い出せない。


「初めまして。保険医の宮田です。」



私が悩んでいると、その人は自己紹介をしてきてくれた。



宮田……宮田って…


「………………………ああ!新しい先生の人かぁー。よろしくお願いしまーす。」


そうだそうだ。

始業式で前に出てた、新しい保健室の先生だ。



「宮田、こっちは安野だ。」


頭を90度くらいまで下げると、先生が私のことを宮田さんに紹介した。

やだ、なんかこの図、結婚するカップルが互いのご両親に相手を紹介してる時みたいっ!!

いいねっ!!



「奥さんですか?」

「はい、そうなんですっ!!」

「違う」



宮田さんの冗談めかした言葉に、私は笑顔で肯定して、先生はすぐに否定した。



「せんせぇー、ツンデレはツンデレでも、ツンの比率が大きいですー」



ブーブーと文句を言うと、竹内先生はまた、頭を抱えて、ため息をついた。


「せんせぇー、そんなにため息ばっかりついてると、幸せ逃げちゃいますよ?」

「誰のせいだと思ってる。」



こっちを睨んでくる竹内先生もカッコいい!

イケメンすぎて困ることは……………………………………無いね、やっぱり!



「竹内先生、あとこちらの本はここで良いですか?」

「ああ、ありがとうございます。宮田先生。」

宮田さんは、どうやら先生の整理の手伝いをしてたみたいだった。

私もたまに、この部屋を掃除するから分かること。
確かに、見てみれば、いつもよりも部屋は綺麗に整頓されている。


「へー、先生ー、宮田さんにありがとうって言わないとっ!!」

「うるさいぞ、安………」

『お呼びだしを致します。竹内先生、竹内先生、至急、校長室までいらして下さい。繰り返します………』


先生に宮田さんへの感謝を促すと、校内放送がかかった。


呼び出された竹内先生は、さっきの顰めっ面を、一気に真面目な表情に戻して、立ち上がる。

ボールペンを持つと、私の方を振り向いた。


「安野。私は校長室に行くから、鍵はお前がかけておいてくれ。」



そういうと先生は私に鍵を渡す。


「はーい、わっかりましたーっ!!先生頑張ってー!」



足早に部屋を出て行く先生を手をふって見送る。

この分だと、お昼は帰ってこないだろうし、私の愛情たっぷり弁当は、先生の机の上に置いておこう。

うーん、けどなぁ………

「せんせぇ、大丈夫かなー?お昼また忘れたりしないかなー?」


先生は時々、ご飯を食べ忘れることがあるから心配でしょうがない。


よし!宮田さんに聞いてみよーっと。


「どう思う?宮田さん。先生、ちゃんと食べると思う?」


突然の質問に面食らった表情をしていたけど、宮田さんはすぐに言葉を返した。


「大丈夫だと思いますよ。安野さんが作ったんでしょう?」

「うん。」

「なら、食べますよ」


おおおお!いいね、宮田さん!
私と竹内先生の強い絆を分かってるっ!!


「えへへ、そうかなっ!!」


嬉しくて、たまらない。
先生はツンツンツンツンツンツンツンデレだから、時々心配になる。

こうやって、誰かに言ってもらえると、やっぱり嬉しい。


「安野さんは、竹内先生が好きなんですか?」

「はいっ!!大好きですよっ!!もう、世界中の誰よりも何よりも大好きですっ!!」


先生の為なら例え、火の中水の中!
それくらい私は先生が大好きでたまらない。



「………そうですか」



宮田さんは、すこし寂しそうに言った。


「羨ましいですね、そういう仲の良さ。」

「もうっ!!照れますってー、宮田さんーっ!!」

「っ!?」



バシッと背中を叩くと予想外に力が入っていたみたいで、宮田さんは痛そうにしていた。



「大丈夫!?ごめん!宮田さん!!」



急いで宮田さんの顔をのぞき込むと、無表情が浮かんでいた。


「すいません、大丈夫です。」

ふぅ、と息を小さくはいて、宮田さんは言った。


うーん、というか、宮田さんって、誰かに似てる気がするんだけど、誰だっけ?



「………安野さん?」



顔をジッと見てたら、宮田さんが困ったように声を出した。

うーん……誰だー?


なんか、こう、殴った時の感覚がよく似ている…………



「どうしましたか?」

「……………」



…………………あ、



「あ、あーっ!!」


私が、大きな声を出したせいで、宮田さんはビクッと肩を震わせた。


そうだ、この、肩を震わせた時の感じとか!


「宮田さん、牧野さんにそっくりだねっ!!」



私がそういうと、宮田さんは初めて素直に、意識的に顔を歪めた。



「………牧野さんは私の…………………………………双子の、兄…ですから。」



重いため息と一緒に、宮田さんは言った。


へー、双子のお兄ちゃんかぁ。
いいなぁー。



「確かに似てるよねー。」

「………そうですか?」



宮田さんは、依然、不機嫌そうに答える。


「うん。なんか、優しい所とか、特にそっくり!」

「や……………」



細かく言うと、牧野さんは、求導師って感じの『優しい』だけど、宮田さんは保険医って感じの『優しさ』があった。


うーん、なんていうか、ここに竹内先生がいたら、絶対『意味がわからないぞ安野』とか言われてる気がする!



「初めて言われました……………、優しいなんて。」



目を丸くしながら、宮田さんは言う。

意外だった。

「えー宮田さん優しいのにー。」

「まさか。」


ありえない、っていう風に宮田さんは言う。


けど、私は、ツンツン(略)デレの先生と一緒にいるからか、優しさとかあったかさとかは、よく理解してる自信がある。


つまり、



「宮田さんが優しいのは間違いないですっ!!」



ここの学校の人は、わかってても口に出さない事が多いからなぁー。


だいたい、優しくない人に、せんせぇが片付けとか頼むはずないもん。

そういう所は鋭いからなぁ、あの人。



「それは……ありがとうございます。」



照れくさそうに、ふてくされるフリをする姿は、なんだかすごく竹内先生に似てた。


うん。


「よし決めた」

「どうしたんですか?」

「先生、やっぱり心配だし、5限目に食べたか確認しよっと!」

「良いんじゃないですか?」


ちなみに、今日のお弁当には、甘い卵焼きを入れている。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -