死亡フラグ
「宮田さんって、中身Sですけど、見た目Mですよね」
「………は?」
「………へ?」
何ヶ月か前、石田さんと飲みにいった時、言った言葉に、珍しく私たち双子は同じ反応を返してしまった。
「……どういう意味ですか。」
不服そうにココアを飲みながら、宮田さんは石田さんに言う。
「えー、どういう意味って……ねえ、牧野さん?」
石田さんは、ケラケラと笑いながら、私に同意を求めた。
「え、えぇ〜?うーん…………」
少し考えても、同じなものは同じだった。
「み、見た目も中身も驚くほど、ドSじゃないですか?」
「……牧野さん、明日生きていると良いですね。」
殺気を感じた。
今、私は宮田医院を訪れている。
最近、宮田さんは忙しいのか、教会はもちろん、私の家にも来ていないし、道端ですれ違うことすら無かった。
始めこそ、しょうがないの一言で片付けていれたのだけれど、それが1ヶ月近く続けば、私には、限界だった。
たまには、私だって弟と話したいし、その……い、イチャイチャだってしたい。
午前診療のみの日だったみたいで、すでに美奈さんや、他の看護婦さんの方達は帰った後のようだった。
空っぽになった病院の暖房は、すでに切られており、暖かさを失っている。
突如、ボーンという音が響いた。
「うわぁぁぁっ!!?…………って、と、時計ですか…」
人のいない病院というのは、予想以上に不気味なもので、13時をしらせる時計の音すら、私には恐怖の対象だった。
足早に宮田さんが居るであろう、診察室に向かう。
「……宮田さーん?」
診察室のドアをゆっくり開けて、中を覗く。
宮田さんを探してみるけれど、机のそばにはいなかった。
もしかしたら、帰ってしまったのかもしれない。
諦めて、帰ろうと思った時、小さな寝息が耳に入ってきた。
「………わぁ…」
珍しくも、宮田さんは患者用のベッドで仮眠をとっていた。
仕事の後、そのまま寝ているようで、宮田さんがいつも着ている白衣は、シワだらけになっている。
普段より、幾分か幼く見える寝顔は、いつもの無感情な姿を隠していて、可愛らしく見える。
柔らかい茶色がかった髪を撫でると、いつもはすぐに払いのけられるのに、当然だけれども、そうされることは無かった。
彼のこれほど無防備な姿を見るのは、久しぶりに思えて、少しだけ嬉しい。
「宮田さーん?」
声をかけてみるけれど、だいぶ熟睡しているみたいで、まったく起きる気配はなかった。
このまま、宮田さんの寝顔を堪能するのも良いのだけれども、それでは私が来た意味を失ってしまう。
少し考えてから、宮田さんの方を見た。
(M………って、感じでは、やっぱり無いですよね……)
ふと、カーテンをまとめる為の人の腕くらいの太さの布が目に留まる。
「うーん………」
なんというか、今なら、命を惜しまず、何でも試したがる科学者の気持ちがわかる気がした。
「あれ?へ?え?……えぇー……ど、どうしましょう……」
ちょっとした探究心で、腕をベッドに縛り付けたり、目隠しをしてみたりをしたは良いものを、慣れないことをしたせいで、腕の方の拘束が取れなくなってしまった。
どうしよう……
今まで、宮田さんが寝ていること自体が奇跡みたいな状態だったのだから、確実にそろそろ起きる気がする。
本当は、宮田さんが熟睡している間にちょっと縛って、こっそり解いてお終いのつもりだった。
宮田さんも、疲れているだろうし
この状態のまま彼が起きたら、確実に機嫌を悪くすることはさすがの私でも分かる。
だから、本当に少し見て、石田さんの言う、見た目Mが本当かどうか実験してみるだけのつもりだった。
なのに、まさか絡まってしまうなんて………
「どうしましょう………」
考えてみるけれど、良い案が浮かぶ筈も無く、時間だけが刻一刻と過ぎて行った。
「…………ん」
「わぁぁぁぁぁぁっ!!すいませんでしたっ!!」
突然の宮田さんの声に、私はまた悲鳴を上げて、謝ってしまった。
「…………は?牧野さん?」
寝起きで頭が働いていない宮田さんは、状況を把握していないのか、驚いた声で私の名前を呼んだ。
「は、はい………」
思わず、背筋を伸ばしてしまう。
だんだんと少しずつ理解した宮田さんは、私の声を辿って、こちらを向いた。
「どういう事ですか?これは。」
それでも視界の無い状況では、事態を把握しきることは出来ないようで、私に尋問するように聞いてきた。
「えーっ……………と……」
「とりあえず、解いて下さい。」
宮田さんは、そう言ってきたけれど、何かもったいな気もするし、そもそも腕の方は絡まってしまってほどけない。
例えばここで素直に宮田さんに言ってしまえば、おそらく、彼のことだからどうにかするのことは、可能なのだろうけれど、きっとそれを告げた瞬間、私の命は危険に晒される。
(ど、どうしよう………)
頭をフル稼働して考える。
(あとで土下座をしよう。)
私はとりあえず、このまま、事に及んでしまうことにした。
(もともと、するつもりでしたし)
何か根本的な所が違う気がしなくも無かったけれど、とりあえず、一番始めに思いついたのがそれだった為、とりあえず私は実行することにした。
「宮田さん………」
上にのって、頬に手を触れると、びくりと宮田さんは体を震わせる。
「…っ!!?……………牧野…さん?」
「今日は、このまましましょう?」
服のボタンを外しながら言うと、宮田さんは、抵抗するように体を捩らせた。
けれど、腕を拘束されている状態では、それも意味のもたないものだった。
「…牧野さん、離して下さいっ!!」
珍しく切羽詰まった声で宮田さんが言った。
私がどこかに触れるたびに、体を震わせて、反応を返す。
「んぁっ!……ふっ……牧野さんっ!!」
胸の飾りをペロリと舐めると、宮田さんは甘い声をあげた。
いつもよりも反応が良い気がするのは、気のせいなのだろうか………
舌で、胸の飾りを転がしながら、そんなことを考える。
「――っ!!」
軽く噛みつきながら、宮田さんの方を見ると、歯を食いしばって、快楽に耐えていた。
「…宮田さん、気持ち良いですか?」
「ふっ…………ァ…」
聞くと、弱々しくではあるけれども、宮田さんは首を横に振った。
胸を弄びながら、ベルトを外して、ズボンを脱がす。
視界を奪われた敏感な状態というのは、布が肌に擦れることにすら、体が素直に快楽を見いだすようで、宮田さんは小さく熱い息を吐いた。
「……はっ…ぅ………」
彼自身を抜きながら、彼の顔を見る。
瞳は布で覆われいて、見ることが出来ないけれど、切なそうに眉を寄せて、熱い息を小さく嘆息する姿は、確かに、石田さんの言う通り、Mに近いかもしれない。
「ひっ……ゃ……んぁぁあっ!!」
ふと目に留まった耳たぶを甘噛みすると、宮田さんは大きく喘いでイってしまった。
「……え、宮田さん?って、わっ!」
あまりに早い射精に思わず私が呆然と名前を呼ぶと、宮田さんはバタバタと暴れ始めた。
「ふっ………もっ、見るな、変態っっ!」
羞恥からか、顔を真っ赤にさせながら、宮田さんは暴れる。
しかし、イったばかりの体は、力が上手く入っていなくて、子供が駄々をこねるのに似ていた。
確かに驚きこそしたけれど、まったく効果は無い。
落ち着かせるように、下ろされた前髪を上げて額にキスをする。
「ぅぁああっ!!ひぅっ………ゃっ…ァ…」
竿をなぞりながら、耳の中に舌を入れると、また、宮田さんは射精をした。
「ふぁ……ゃ…ひぁぁっ!!」
いつもより研ぎ澄まされた聴覚を犯す感覚がたまらず、ピチャリと音をたてて、宮田さんの耳を舐める。
断続的に射精し続けている宮田さんは、強すぎる快楽のせいで辛そうな表情を見せていた。
「宮田さん、気持ち良いですか?」
もう一度同じ質問をすると、宮田さんは、コクコクと何度も頷いた。
「もっ……わかり、ましたからっ!!これ外して下さいっ!!」
必死な声でそう言われて、私は目を覆う布を解いてやる。
生理的な涙でぐしゃぐしゃになった瞳は、ぼうっと熱に浮かされたように私の方を見つめ、少し寄せられた眉が、泣き出しそうな表情を作り出していた。
妙に扇情的なその姿は、私の熱を煽る。
「………腕も解いて下さい」
とは言われても、腕は私でも外すことが出来ない。
仕方ないので、宮田さんの口に深く口付けて、腕はそのままに、彼を貫いた。
「ふぁ……ぁああっ!!牧野さっ!ゃっ!!いやですっ!!」
宮田さんは嬌声をあげて、腕を動かす。
「ひっ、やめっ!!うぁぁっ!!」
そのまま良い所を突くと、いっそう高い声をあげる。
すると、どこがどうなったのか、奇跡的に腕の拘束がほどけた。
おぉ、と感動しながら、私は動きを止めて、宮田さんの方を見ると、こちらを涙目で見つめてくる瞳と目が合った。
……………あれ?これ殴られるフラグたってませんか?
「み、宮田さっ、すいま……」
「……………牧野さん…」
殴られる前に謝ろうとすると、突然、首に腕を回された。
ああ、絞殺かぁ、などと考えていると、宮田さんの方から口付けられた。
「牧野さん、牧野さん………」
譫言のように、私の名前をつぶやきながら、抱きついてくる宮田さんを見て、何だかとてつもない罪悪感と、欲が込み上げてきた。
「………すいません、宮田さん…」
素直に謝って、動きを再開する。
「ふっ……ァ…ぁああっ!!」
突然、敏感な粘膜を擦りあげられて、宮田さんは嬌声をあげて背中にしがみついた。
「牧野さっ、ぁっ、ひっ!!」
先ほどよりもはやく、動いて、彼をせめ立てると、限界が近いのか、中がキュウと締まる。
「宮田さんっ…」
「ふぁぁ、ァ………ぁぁああっ!!」
彼の名前を呼んで、一気に貫くと、背を仰け反らせて、宮田さんは達した。
「…………遺言は」
掠れた声で、宮田さんがそれだけ呟いた。
私はというと、彼が横になっているベッドの向かいに座って、彼の目を見ることもできずに、下を向く。
「えっと………その……宮田さんは、確かに見た目Mでした………」
素直に答えるて、
宮田さんの方をチラリと見ると、物凄い殺気を纏いながらきれいに笑っていた。
…………あ、これは……
死亡フラグ
立ちました