恐怖値上昇




「帰って下さい」


真夜中に突然、自宅を訪れた不躾なヘタレの訪問者に、宮田はそう言い放った






時は数時間前
場所は牧野の自宅に変わる
いつも通り、家に帰ったあと、八尾が作ってくれてた夕飯を彼女と食べていた時、石田が家を訪問した

話によると、面白いビデオを見たから、一緒に見ようとの事だった

宮田を通じて知り合った石田は、明るく、誰にでも人懐っこい
なんだかんだで、他人の意見を尊重し、他人のテンポに合わせようとする性格は、宮田だけでなく、牧野にも合ったようで、仲は宮田ほどでないにしろ良好だった


村にいるのに、流行や面白いことにはいち早く気づく石田が、面白いというビデオだ

よっぽど面白いのだろうと、三人で見ていた


「…………………」


それは、確かに面白いビデオなのだろう
なんていったって、臨場感が違った
CGをなるべく使わないように、と念入りに撮影されたそのビデオは、光の入り方一つにもこだわりを持っているのが伝わってきた
何より心拍数が異常だった
きっと、好きな人は大喜びするであろう出来だった


出来なのだが、内容が内容だった


現実には有り得ないであろう事象を、あたかも本当にあったかのように演出し
人の叫び声から、呻き声までリアルなそれは、


まぎれもないホラー映画だった


「八尾さぁぁん……」


いつも通り、涙目で八尾にすがる牧野

だが、八尾は意外にもホラー好きで、石田と一緒に熱中してしまった


唯一の助けとも呼べる八尾を失った牧野は、とりあえず耐えて、八尾にしがみつきながら、見ていたのだが、20分ほどたって、物語が山場に入って女の叫び声がすると同時に、とうとう我慢が切れて、

「うわぁぁああああぁぁっ!!」

牧野は自分の家にも関わらず、逃げるように飛び出した


石田が持ってきたビデオの量からして、夜通しホラー鑑賞会になることは目に見えていた

どうする事も出来なくなった牧野は、ウロウロと、村中をさまよった後、とうとう宮田の家に来て、事情を話して泊まらせてもらおうとした




そして冒頭の宮田の、当然とも呼べる発言だ




「そんなぁぁ………宮田さんんんっ!入れて下さいお願いします!!」




もはや行く宛がここしかない牧野は大声で叫びながら、嗚咽混じりに、宮田を呼んだ

いったん鍵をかけて、中に入っていっていた宮田だったが
こうもずっと騒がれては、また村人からまた、嫌な噂を流される
周りの目はどうでも良いが、それで仕事がやりずらくなるのは、宮田は嫌だった牧野に聞こえないように小さく舌打ちをしてから、宮田はガチャリとドアを開けた


「……………どうぞ」

「あ、ありがとうございますっ!!」


鍵が開く音を聞いて、顔を輝かせながら、牧野は宮田の家に上がった


簡素で、必要最低限の物しか置かれていない、宮田の家は、あまり来ないせいか、落ち着きを持てなかった


時計を見れば、短針はすでに10を指しているのに、宮田はついさっき帰ってきたばかりなのか、鞄が机の上に乱雑に置かれていた


牧野がインターホンを押した時も、コートで出てきたから、おそらく本当に帰ってすぐだったのだろう


冷え切った室内を温めるために、暖房のスイッチを入れてから、宮田はコートとマフラーを脱いだ

牧野がそわそわと動くのを鬱陶しそうに、見ながら、宮田はお茶を煎れた



「牧野さん、風呂先に入りますか」



牧野の前に湯のみを置いてから、
自分は熱いお茶を一気に飲み干して、宮田は言った



「えっ…………お風呂………ですか………?」



風呂、という単語を聞いた牧野は、急激に喉が乾いたような感覚に陥り、お茶を飲もうとした
しかし、熱湯で注がれたお茶は、猫舌の牧野にはいかんせん、飲むには熱すぎて、喉を潤すことはかなわなかった


「なんですか、入らない気なんですか?」



宮田の言葉を聞いているのか、いないのか、牧野は固まったように動かない

どうしたのか、と問おうと宮田が口を開こうとする前に、牧野はぎこちない動きで、宮田の方を見て、真っ青な顔で言った



「その………一緒に入りませんか?」

「……………は?」



一瞬、牧野の言った言葉を脳が処理しきれず、宮田は思わず聞き返した



「その……ホラーに風呂が………使われてて…一人で…風呂は…………怖いです…………」

「嫌ですよ」



チラチラと顔色を伺いながらポツリポツリと言葉を落とした牧野を見ながら宮田は当然ながら拒んだ



「宮田さんんんん、一生のお願いですからっ!!」



顔の前で手を合わせて、牧野は懇願してきた


そんな牧野を見ながら、宮田は殺意すら持った


(お願いも何も、拒否権が無いだろうがっ!)


もしここで宮田が断れば、これは村の求道士のお願いを聞かなかったということになる

それは最大の御法度と呼べるだろう

つまるところ、牧野は分かってないだろうが、宮田にはYESという選択肢しか無いのだ



「良いですよ………」



大きく溜め息をつくと、宮田は苦々しげに了承した



「何か、着るものを用意するんで、待っていて下さい」



とりあえず、牧野が着る寝間着を用意しなければならない為、宮田は、部屋で何か着れるものを探すことにした



「あ、じゃあ、先に入ってます………なるべく早めにお願いします」



これだけワガママを言っているのだから、一つくらい気の利いたことを、と思った牧野は、とりあえず言ってみたが、やはり、ホラーに対する恐怖が勝り、最後に付け加えた









チャプン、と湯で遊ぶ

もともと、洗うのが早い牧野は、5分くらいでサッサとシャワーを浴びると、湯に浸かっていた



「牧野さん、風呂で遊ばないで下さい」



宮田は子供を叱るように、牧野に言いながら、泡をシャワーで洗い流した


「なんか、久しぶりですね、こうやって一緒にお風呂に入るの」

「妄言も大概にして下さい」

「すいません………あの…あれです………修学旅行とかの話です」



双子と言っても、宮田と牧野は別々の家庭に育てられている
一緒に風呂を入るなど、子供の頃でも無かった




ボウッと、牧野は宮田を眺める


自分とは違い、筋肉がほどよくあり、均等のとれた体は、最近は食べていないのか、牧野が宮田と前に情事をした時よりも、痩せている気がした


シャワーの水が、綺麗な線描いて、白い肌を伝って落ちていった

顔に水がかかると、長い睫に滴がたまって、目をふせると、憂いを帯びた表情を作り出した


(なんか、双子なのに、宮田さんは綺麗です)


牧野は、周りからやれ可愛いやら、やれ優しいやら言われるが
宮田は、村人からは遠巻きにされど、須田などからは、綺麗だとか、格好良いだとか、双子なのに全く違う評価を得ていた

だからこそ、牧野が惹かれたと言っても、間違いではないのだが、思わず溜め息をついてしまう



宮田が水を払うため、鬱陶しそうに髪をかきあげれば、石田や美奈がよく言う宮田特有の色気が、牧野の目に飛び込んできた



(ああああああ)



その色気は、牧野にとってクるものではあったが、帰って早々に、泊まりを頼んで、ごり押しで風呂まで一緒に入ってもらっているのに、そこで、手をだしたら、殺される気がして、牧野は煩悩と戦った


「………………変態、気色悪いです」

「ええっ!!?」



まるで下心を見透かしたように宮田にいきなり言われて、声が裏返ってしまった



「すいません、気持ちの悪い顔をしていたので」

「うぅ………」



言い返すことが出来ず、落ち込んでうなだれることしか出来ない牧野を見て、宮田は嫌そうに言った



「そんな事でどうするんですか、村の求道師が変態なんて、恥ずかしいですよ」

「大丈夫ですっ!!す、する気はありませんっ!!」

「当たり前ですよ、もしこれでヤる気なら、最低ですね」




ボロクソに言いながら、宮田は湯に入った
普通よりも広めの風呂は大の大人が二人入っても、まだ、そこそこの余裕があった


「べ、別に始めから下心があって入ったわけでは無いんです……」


散々な言われ方をした牧野はというと、せめてもの反論を、勇気を出して言ってみるが、言い訳にしか聞こえず、後ろの方は尻すぼみして、聞き取れないくらいになってしまった


しかし、宮田がこんなに嫌悪感、というか、批判を露わにするのは、珍しい


いつも、二言三言は、文句を言うが、それ以降は、何事も無かったかのように、会話を続けるのが、宮田という人物だ

牧野が不思議に思って、うなだれた顔を上げると、真っ赤な顔の宮田と目が合った


「……へ?」


牧野は思わず、素っ頓狂な声をあげてしまった


「………なんですか」


宮田は気付いてないらしく、睨みつけてきた
いつもは、怖くて逸らしてしまう、その睨みも、この顔では、まったく効果は無かった


本当に、牧野はする気など全く無かったのだ



「宮田さん………やっぱりしたいです」




これは不可抗力だ、と自分に言い聞かせて、牧野は、宮田の腕を押さえつけた

状況を理解できず、呆然としている宮田にかまわず、牧野は口付けた



逃げる舌を追って、絡めとる
鼻から抜けるような甘い声を漏らす宮田を見ながら、歯の裏筋を撫でるように舐めると、宮田はビクリと体を震わせた

やっと状況が理解できた宮田は、抵抗しようと腕の拘束を振りほどこうとするが、暑さと酸欠のせいで、上手く力が入らず、意味の無いものとなった


牧野が長い口付けを解いて、浅く呼吸を繰り返す宮田の胸を弄った



「はっ……」

「宮田さん、しても………良いですか?」



力が抜けきった宮田の、拘束を解いてから
牧野は、思い出したように宮田に聞いた


「っ……」


今更な事を無責任に聞かれた宮田は、言葉を詰まらせて、牧野の視線から逃れるべく、目をツイと逸らした


「宮田さん?……やっぱり、ダメ…ですか?」


牧野は胸を弄る手は止めずに、宮田と目を合わせた

ここで嫌だと言えば、牧野が本当に止めることが分かっている宮田は、分かれ、というように、牧野を睨んだ


「ぁ…………牧野さっ……」


牧野が強く胸の飾りを潰すと、腰にまで快感がビリビリと伝わり、宮田は小さく、声をあげた


「……は、はい」


訴えるように、名前を呼んでも、気付いていないのだろう、牧野は、いつもの情けない声で答えるだけだった


(このっ……天然鬼畜ヘタレがっ!!)


心の中で、牧野が聞いたら自殺するレベルであろう、悪態を吐きながら宮田は、小さく舌打ちをした


「………好き、にしたら良いで…っっ!!」


宮田が最後まで言い終わる前に、牧野は宮田の中に指を入れた


ゆっくりと中に押し入ろうと指を入れていく

「っ!!?んぁっ!ひっ、待って下さい!」


宮田の様子がおかしいことに疑問を持った牧野は、指はそのままに首を傾げた


怒られるんじゃないか、という恐怖のままに宮田を見ると、唇を噛みながら、辛そうに、眉根を寄せていた


「すいませんでしたっ、どうしましたかっ!!?」


宮田に何か文句言われる前に牧野は謝って、宮田に心配の言葉をかけた


「…………です」


体をガタガタと震わせながら、宮田は小さくいった



「え?」

上手く聞き取れず、牧野が聞き返すと、宮田は目を固く瞑った


「っ、ぁっ、お湯が入ってくるんですっ!!」




半ば自棄になりながら言った宮田を見ながら
牧野は気分が悪いわけではないのかと安心して、指を増やした


「ぅあっ!……っ、牧野さんっ!!」


牧野を押し返そうと、伸ばした腕は、更に入ってくる湯の熱さに耐えきれず、すがりつくようになってしまった


拒むように蠢いていた中は、ある一点を境に、吸いつくような動きに変わった


「……ぁ…んっ…………ひぅ…」


ハァっと息を吐きながら、宮田は快感をやり過ごそうと唇を強く噛んだ


「宮田さん、血、出てます……」



自分が傷ついているかのように、牧野は顔を歪めた後、傷口を舐めて、深く口付けた



「んっ、ふっ……ぁ…」

「宮田さん…いれますよ……?」

「まっ……外でっ!!ぁああっ!!」



口付けを解いてから、牧野が言うと、宮田は湯から出たいと言おうとしたが、その前に、牧野が入ってきた



「ひっ……ぁあっ…まきのさっ……ゃっ、……あつ、いですっ!」



中からお湯が入ってきて、脳がクラクラするような感覚に宮田はたまらず、牧野に縋る



「っ………は、宮田さんっ、大丈夫です…」



牧野は落ち着かせるように、宮田の濡れた髪を撫でて、中に入っていった



「っと、この辺り…でしたっけ」

「―っ!!?ふぁっ、ぁっ!…やっ、……ひっ、ゃあっ!!」



記憶を辿って、浅いしこりの部分を抉ると、宮田は更に乱れて
熱さと快感で、視界がチカチカとなりながら、断続的に声をあげ、牧野にしがみついた



「ふぁ、ぅ…ぁ、んぁあああっ!!」



腰を引いて、最奥を一気に貫くと、宮田は一際大きい声をあげて果てた

「っ……」


締め上げで牧野も中に果てて、お湯とは違う熱さが注がれたのを宮田は感じた



「…………………」
「………宮田さん?」



呼吸を繰り返しながら、ぐったりとした宮田は、いつもの疲れとは違った様子で、牧野は声をかける

しかし、返事が返ってくることはなく、牧野はまさかと思って宮田の顔を覗いた


「………え?宮田さん?えっ、もしかして、えっ?」


宮田は完全にのぼせていた



「待って下さい宮田さんっ!!返事して下さいっ!!こわいっ!!宮田さあああんっ!!」



宮田が死ぬのではないかという恐怖と、幽霊に対する恐怖が入り混じった牧野は、半ベソになりながら、宮田を呼び続けた



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