side:牧野


例え同じ所で生まれても、
例え同じ親を持っていても、
例え同じ姿をしていても、

それは、双子と呼ばれる他人なのだ。


そう教えたのは、アナタの言葉。


『牧野さん』


その言葉で、私達は兄弟ではなく、他人になった。


けれど、今までだって、全く会わなかったワケだし、
ほとんど他人も同然だった。


そうしたのは、彼であり、私だった。


ただ、それを言葉に出したのが、
10数年振りに会えた彼だっただけで。


なら、何故、


どうしてこんなに、


『他人』という言葉に胸が締め付けられるんでしょうか?


分からない。


まるで、間違ったパズルのピースを無理矢理はめあわせたような、この感じは何なのだろうか。


分からない。


もし、分かった時、私の心は晴れるのでしょうか?









       Act7.








「宮田先生、寮に入るのですか?」


つい、三時間ほど前、入寮の手続きをしていた、私と宮田さんの元にやってきた八尾さんは、彼に聞いた。


柔らかくも、凛とした物腰は、優しく、安心感を与えるもので、さすがだなぁ、といつも感心してしまう。


「…………………」


ペンが紙の上を滑る音が響く。



静寂。



「……………み、宮田さん?」


何も言わない宮田さんが気になって、私が声をかけると、
いつもの無表情のまま、まるで八尾さんなどいないかのように、宮田さんは入寮の手続きの紙を書いていた。


無視を決め込む宮田さんに困ってしまった私が、八尾さんを見ると、
彼女は私が困っていることに気がついたようで、まゆを下げながら、微笑んだ。


「お気に病まないで下さい、求導師様。」


全く気にしていない、という雰囲気で八尾さんは言う。


「…は、はい………」


一応、私は八尾さんの言葉に答えた。

ここで、兄らしく、宮田さんを叱りつけるだとか、そういうことが出来れば良いのだが、
生憎と私には、そのような度胸も勇気も、……………………権利もない。

宮田さんは、未だにサラサラと紙に自分の名前を書いて、八尾さんの方を見ることすらしなかった。


「あら?同居人は決まっていないのですか?」


八尾さんが、紙を見て目を丸くする。

「……ええ、まあ」


否が応にも、宮田さんの視界に入るように、紙を覗き込んだ八尾さんを見て、宮田さんは小さく答えた。


「須田君たちの部屋はさすがに、三人もいるので………」


苦笑しながら、私が足りない宮田さんの言葉に加えて言うと八尾さんは、キョトンとした顔をしてから、笑顔で口を開く。





「求導師様のお部屋が空いていらっしゃるじゃないですか」




……………ああ、どうしてこうも、人生は難しいんでしょうか。









「うぅぅ………八尾さんの意地悪………」

結局あの後、あーだこーだと宮田さんと一緒に理由をつけたけれど、どれも八尾さんによって反論されてしまった。




「はぁぁぁぁぁ」



うなだれていた頭をあげて、天井を見つめる。

重いため息を、一人、部屋で零してしまった。


今までは広すぎるくらいだったこの部屋の中は、今、宮田さんの荷物で溢れ返っている。


溢れ返るといっても、必要最低限のモノしか持って来なかった彼の荷物なんて、バッグ2つで収まる程度だ。

しかし、それでも、その荷物を見ると、これから宮田さんと同居するのだ、という事実が目の前に突きつけられた気がして、不思議な気分になる。


暗くなって外の気温が下がったからか、寒くなった部屋は、いくら春といえども少々ツラいものがある。

暖房でもつけようと、リモコンに手を伸ばした時、




ガチャリ、とドアが開いた。

入ってきたのは、自分によく似た顔で、それでも自分と違い無表情を浮かべる彼。


宮田さんが入ってきた、それだけで、私の心は不自然に乱れる。
心臓が不規則に動き出して、早鐘を打っているのが分かった。



「………み、美奈さん……どうでしたか…?」


とりあえず、宮田さんとの気まずい沈黙を阻止する為に、美奈さんの容態を聞く。

私は、暖房をつけるタイミングを見失ってしまい、冷える足先を正座することで凌いだ。


「ああ、……大丈夫ですよ。風邪をこじらせたみたいです。
熱が高いのは、彼女の心が不安定というのもあります…………あまりネガティブな発言はしない方が良いですね」

「プラシーボ効果……というやつですか?」

「それに似たようなモノです。」



そう言うと、宮田さんはベッドに座ってこちらを見てきた。

まるで、人形のような、透き通る、無感情の瞳は、一度目が合うと、何故だか反らす事ができない。


困ったように、目を合わせる私を見つめた後、彼は口を開いた。



「寒いんですか。」

「………へ?」



一瞬、宮田さんが言った言葉が理解出来ずに、間の抜けた声で、聞き返してしまった。

いえ、と彼は言う。


「ベッドの上なのに、ずっと正座をしているので。」


想像以上に、彼が私を見てくれていることに少し驚いた。


「ち、ちょっとだけ………寒い、ですね…。」

「………暖房つけますか?」



そう言うと、宮田さんの、細くきれいな手のひらが、リモコンに触れた。


先ほど、食事中も思ったけれど、宮田さんは本当に手が綺麗だ。

いえ、確かに、見目も綺麗なのだが、なんというか……これが、けっこう前に石田さんが言っていた『良い男は全てに気を使う』ということなのだろうか。


そんなことを考えていたせいだろうか、自分でも知らないうちに口が動いた。


「………宮田さん、手、綺麗ですね」


思っていたことをそのまま口に出してしまう。


「……は?」


気付いた時には、すでに遅く、少し、驚いた雰囲気の宮田さんが目の前にいた。


「ぇ………あっ!!いえ、あの、別に変な意味では無くてっ!!」


慌てて私は手を振って、宮田さんの怪訝な表情から逃れようとする。


「はぁ………」


すでに、無表情に戻ってしまった彼は、興味なさげに言う。


「……………別に、手のひらの形なんて同じでしょう」


吐き捨てるように、溜め息混じりに、宮田さんは言った。

確かに、双子なのだから、同じだろう。
私も、知子ちゃんに手が綺麗だと褒められた事があるし、
自分の手のひらを今、見てみれば宮田さんとほとんど同じ形だ。


けど、何というのだろう………

何かが違う。


「えっと、何でしょう……」


宮田さんの方を見る。

端正で無感情な顔立ちは、やはり自分と同じだけれど、
やはり違うのだ。


茶色がかった髪だとか、
均等についた筋肉だとか、
自分よりも切れ長の目だとか、


これを彼に何と伝えれば良いのだろう。


「えー…っと…………そうっ!!宮田さんだから、綺麗なんですよ!」


目を丸くした宮田さんと目が合う。


…………言った後に、自分の言葉の意味に気付いた。


ど、どこのホストですか…、この言葉…………。


「わぁぁぁっ!!えっと、違いますっ!!その、えっと!」


確かに、これが一番しっくり来るのに、まるで口説き文句のような言葉に、私は慌てて否定して、謝る。


宮田さんが、呆れたように言った。


「………どこのホストですか、その言葉。」

「い、意図して言ったワケではないんです!」



涙目になりながら言葉を返して、


彼の言葉を感じながら


あ、シンクロしたなぁ、だなんて。


思わず考えてしまった。

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