side:美奈

「ゲホゲホッ」


……咳が止まらない

体のダルさはけっこう抜けたのに、今度はだるさと入れ替わるみたいに、咳が出始めた


咳の出しすぎで、頭が痛むのを耐えながら、水を飲もうと手を伸ばす



コンコン



控えめなノックの音がした



「美奈ちゃーん?入って大丈夫ですか?」

「ゲホッ、はあい、どうぞ」


石田さんだ

水の前にマスクを出してつける



「大丈夫?………ではなさそうですね」



ひょっこりと顔を出した石田さんは、私の顔色を見て、苦笑する

私は、なるべく心配させないように笑顔を作った




「失礼します」




何か言おうと口を開いた時、初めて聞く声がした

低くて、無感情なその声は、ロボットみたいなのに、やけに凛としていて、澄んで聞こえる


一人の男性が入ってきた





       Act6.






「牧野……さん…?」


牧野さんにそっくりの人だった

ただ、牧野さんと違って、瞳からは感情は読み取れず、冷たい視線は他人を近寄らせようとしない、そんな雰囲気を纏っている



「今日から、高校の保険医をやらせていただきます、宮田です」



ぺこりと頭を下げて、部屋の椅子に座った



「一応さ、看てもらおうと思って」



宮田さんに次いで、中に石田さんも入ってくる


気の回る石田さんのことだから、きっと、須田君が心配そうにしてたのを見て、いたたまれなくなったのだろう


石田さんはそういう人だから

彼は、いつも子供みたいに騒がしいけど、誰よりも気の回る人だ


他人のちょっとした不安や、心の乱れを見つけるのも、
それを自然に取り除くのも、
石田さんは得意だった




「すいません…ありがとう石田さん」

「美奈ちゃんんんっ!!美奈ちゃんだけが、俺の心のオアシスですよっ!!」



笑いながら、お礼をいうと、泣きながら抱きつかれた

きっとまた須田君あたりに、邪魔とか言われたのだろう

頭を撫でながら、宮田さんの方を見ると、彼は見向きもせずに、黙々と診察の準備をしていた
その手際の良さは保険医さん、というよりかは、内科医さんみたいだった



「体温を計って下さい」

「はい」



手渡された体温計を脇に差し込んで、熱を計る

石田さんは、暇そうに床に座りながら、宮田さんの手元を見ていた


沈黙の中で、ピピッという体温計の間抜けた可愛らしい音がした

体温計を自分で見る前に、宮田さんが取り上げてしまった



「ふむ……、美奈…さん、と言いましたか?」

「はい」

「大丈夫みたいです、熱もそんなにありません」


良かった
それを聞くと、少し体が楽になって、体調が良くなった気がした



「咳はおそらく治りかけだからでしょう」



そういうと、宮田さんはスポーツ飲料と薬を何錠か私に手渡した


「マスクは息苦しいでしょうが保湿になります、なるべくするようにして下さい」


宮田さんはそういいながら、石田さんに水を持ってくるようにお願いした


「咳止めと、喉の炎症を抑える薬です」


そういって、宮田さんは丁寧に薬の説明をしてくれた


なんだか、無感情で怖そうな人だと思ったけど
そんなことは、全くなかった
「宮田さんは、優しい人ですね」

「は?」



いきなりの私の言葉に宮田さんは、意味が分からないと言った風に、顔を見合わせた

真っ直ぐで、少し茶色がかった瞳は、職人さんが愛情を込めて作った人形みたいに、綺麗だった



「よーし、よしよし」



ムツゴロウさんみたいに、宮田先生の柔らかそうな茶色がかった髪の毛を撫でてみた

少し短めの前髪が、目にかかって、呆然とこっちを見つめる宮田先生


「ーっ!」


やっと状況を把握したのか、顔を真っ赤にしながら、猫みたいに私の手から飛び退いた


「ふふっ、診察、ありがとうございます」



診察してくれたお礼をいうと、つい、と視線を逸らしてしまった



「宮田さーん、お水とクッキー、持ってきましたーっ!!」


石田さんの明るい声と一緒に扉が開くと、宮田先生はガタッと立ち上がって、こちらを見た

すでに無表情に戻ってしまっていたのが、勿体無いけれど、なんだかすごく、さっきの宮田先生はかわいかった


「はい、美奈ちゃん」


クッキーを一枚と、水を渡されて、私は口に入れた
程よい甘さのクッキーは、淳君がいつも作っているクッキーだった

多分、一昨日、美耶子ちゃんが食べたいと騒いでたから、作ったんだろうなぁ


薬を三錠、口に放り込んで、水で流し込む


炎症のせいで、熱くなった喉を、冷たい水が通っていって、ただの水道水なのに、すごく美味しく感じた


「それでは」


椅子を元の場所にしまうと、宮田先生は、石田さんを連れて出て行った


まるで、マニュアル通りのような診断の仕方は、患者の思いなど、知ったこっちゃないという感じにも見えるけど、
きっとよく見れば、宮田先生なりの優しさがある気がした



彼は、そういう人な気がする
きっと、彼はここに馴染めるだろう
私の予想はけっこう当たるものだ
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