反則です




「かーらぁすー、なぜなくのー」




空に一面の赤色が広がれば、聞こえてくる、子供っぽい歌


ヒュウと、冷たい風が頬を刺すのを意にも介さない、大人の声でその歌を歌われる、というのは不思議な雰囲気だった



自身の身長より長くなった黒い影は、きれいに彼の下で、彼と同じテンポで足を動かしていた


電柱には一羽のカラス


歌の問いかけに答えるように、烏がカアと鳴けば、また彼も言葉が通じたかのようにカアと鳴き真似をしてみる



「とうとうバカになりましたか石田さん」



そんな石田を見て、宮田は後ろから呆れたように声をかけた


「あっ、宮田さん。ばんわです、今日も可愛いですね」


その声を聞くや否や、石田は後ろを振り返り、宮田に抱きついた


ヘラリと笑いながら、宮田と目を合わせる


「いだだだだ!痛いです宮田さんっ!!」


すっぽりと腕の中に収まった宮田の頭を撫でようと腕をあげる前に、宮田に手の甲をつねられて、石田は悲鳴をあげた


うっかりと手放してしまった人肌は、先に歩いて行ってしまった


ヒリヒリと痛む手をさすりながら、スタスタと歩いていく宮田の後を追う

二つになった影は、ズレることなく、横並びに歩みを進めていた


「宮田さん、今日はもうお医者さんお終いですか?」

「ええ」


いつもと違い、白衣を着ずに、コートで身を包んだ宮田は、少し新鮮味に満ちていた

鼻の頭を赤くしながら、マフラーで口をすっぽりと覆って、肩を丸めた姿は、まるで小動物が体を丸めているようだった



「宮田さん、可愛いいいいっ!!」


今度は抱きつく前に、無表情のまま、目にも止まらない速さで、殴られてしまった


腹をかかえて、座り込んだ石田を見て、さすがにやりすぎたか、と感じた宮田は困ったように、頭をかくと、しゃがんで石田と目線を合わせた


「大丈夫ですか?」


首を傾げて石田を見ると、涙目の瞳と目があった


「愛が重いです宮田さん………」

「大丈夫みたいですね」


視線を戻して、宮田が立ち上がると、石田もフラフラと立ち上がった


また、2つの影が歩き始めた

カラスが追いかけるように2つの影を追いかける


石田が他愛もない話をすれば、宮田がそれに相槌をうって、時々答える


落ち着いた、この時間は石田が一番好む時間だった




「みや…」

「あ、宮田先生だー」


そこに須田と美耶子が現れた
相変わらずのラブラブっぷりを見せつけるかのように、恋人繋ぎで村を歩く二人は、見ている方が恥ずかしくなるような熱さを持っていた




「なに、先生サボり?」

「みやた、サボりはダメだぞ」

「もう終了ですよ、アナタ達こそ早く帰りなさい」



すぐに取り囲まれる宮田の姿は、昔、初めて会った時の、一人ぼっちの彼からは想像がつかない

それは、石田にとって何よりも嬉しく、喜ばしいことだった



(けどなぁ………。)



どうしてか寂しい


2つだった影が、3つになった


(けどそこに自分はいなくて。)


小さな疎外感は、大きな寂しさを生んで、石田を攻撃してきた


まるで、自分はもう必要じゃないんじゃないか、と感じて、
自分はこれから捨てられるんじゃないか、と
言いようの無い恐怖を覚えた


(そんなことないって分かってる、でも。)


思わず、腕を掴んで宮田を軽く引き寄せる


「っ、石田さん?」


宮田は驚いたように石田を呼んだ

石田自身も驚いたようで、少し目を丸くしていた


須田は石田と目を合わせると、あついね〜、と中年のオヤジのような態度をとると


「じゃ、宮田さん、バイバーイ」


と、手を振って、美耶子と歩いていった



「………………」

「………………」




石田は、その姿が見えなくなってから、宮田の手を強く引いた


「…っ」


予想以上に強い力で引いていたようで、宮田が自分の体を支えきれず、石田の方に倒れ込んだ



「石田さん……?」



強い力で抱きしめる



宮田が見上げると、いつものヘラヘラと笑ったバカ顔ではなく、真剣な顔と目があった




つらそうに、少し眉を寄せて、宮田を見た後、石田は宮田の肩に顔を埋めて、小さく呟いた




「……………すいません………なんか……イヤ、でした…」




顔を上げた石田が宮田を真っ直ぐと見つめる



「思ったより………なんか…独占欲あるのかもしれません…」



困ったように笑いかける




スッと顔を俯かせた

宮田の表情を伺う手段を失い、石田は怒ったかな、と考える





宮田は俯いたまま石田の腕を掴むと






思いっきり石田を投げた






「いだあああああっ!!?」

「石田さん………ウザイです暑いです鬱陶しいです近寄らないで下さい臭い」

「くさっ!!?そんなぁ…宮田さぁぁぁん…………」



言葉のナイフで攻撃されて、地面に伏せながら落ち込む石田を無視して、宮田はさっさと歩き出した



「宮田さぁんっ!!待って下さいよーっ!!」



立ち上がると、石田は急いで宮田の後ろを追いかけた




石田が宮田に追いつく前、

たった一匹の烏だけが、素直じゃない医者の顔を見ていた



真っ赤になった顔を



(石田さんの癖にっっ!!)







反則です
な真



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