side:石田





「あああああ……」


連日の暴飲暴食のせいで、始業式の前、吐き気がオレを襲い、トイレに籠もること、約20分


やっとこさ、吐き気が無くなり、口を濯いで、不快感を拭ってから外に出る



廊下に出ようと扉を開けると、牧野さんと、もう一人、知らない人が一緒に歩いていた


多分、須田が言ってた新任の人っていうのは彼だろう



(牧野さん、双子いたんだ………)



どうしてかわからないけど、隠れて二人を見る


牧野さんは何かを言いたげに、口を動かしている

10歩ほど歩いて、やっと決心がついたのか、口を開いた



「あのっ、司郎……」



新任の方は『司郎』というみたいだ

『司郎』はピクリ、と肩を揺らすと、ゆっくりと牧野さんの方を見た


「何ですか……………………………………………………牧野さん」


…………なんだろう

彼の言葉は、まるで牧野さんを拒絶するように発せられていた気がする



『司郎』がそういうと、牧野さんが今にも泣き出しそうな顔をした後、俯いた





「あっ……いえ、何でもありません……すいません………………………………………………………………………………………宮田さん」





つらそうに、まるで呪詛でも吐き出すかのように牧野さんは重く言った



『司郎』………いや、宮田さんは、無感情にそれを見ると、少し歩みを緩くした





重い沈黙の中、二人は教室に入っていった






         Act3.





「………………………………えっと、それで新しい先生です」



ガラリ

とドアが開けられて、二人が入っていくのを見届けてから、少し時間を置いて、オレは教室に入った

ちょうど宮田さんの紹介の真っ最中だったようで、無感情の瞳と目が合う


自分でも分かるくらいに、眉間にシワを寄せてたと思う



一瞬の沈黙



「石田さんんん……」



破ったのは、牧野さんの今にも泣き出しそうな声だった


オレは眉を下げて、牧野さんに笑いかけた


「ごめんごめん、牧野さんっ!二日酔いがヤバくて」

「ううー……席ついて下さい…」


牧野さんも怒れば良いのになあ…
人が良いっていうか…、なんていうか


席に着く前までは気付かなかったけど、須田のヤツ、早弁してるし
牧野さん鈍すぎ



「それでは、改めて、今日から高3の副担任をしていただく………宮田先生です」



クラス全員の視線が宮田さんにうつる



……………改めて見ると、美麗な人だなあ、と思う
宮田さんは『カッコいい』という言葉をそのまま存在で体現したような人だった


「宮田です。よろしくお願いします」


興味なさげに言うと、宮田さんは軽く頭を下げた
教室内は好奇心と、警戒心の入り混じった空気で、気まずさを作り出していた



「はいはーい質問っ!」



そんな中、元気よく手を挙げたのは、須田だった

立ち上がって、キラキラと目を輝かせながら、宮田さんを見る
高3らしくない子供っぽい無邪気な姿は、教室内の空気を明るくさせた


「宮田先生は、寮に住むんですか?」


GJとしか言いようがない


この学校は、寮制度を取り入れてる


寮に住むか、住まないかで、仲良くなる早さっていうのは、だいぶかわってくる


羽生蛇学校周辺は、村だからか、
各家と家の間に、畑やら田んぼやらが、挟まることが多くて、
隣の家に行くのに5分くらいかかる



つまり、お隣さんに行くにも、一苦労ってワケだ


だから出来れば、寮で一緒に生活して、新しい人間の事を早くしりたかった



宮田さんは、須田の言葉を聞くと、小さく首を傾げた


「……寮…とは何ですか?」


「………………………………………………………………………へっ?」



質問に質問で返された須田は、だいぶ時間をかけて、間抜けな声を一つ出した


助け舟を出そう


「宮田先生は、住むところ決まってるのー?うちの学校、寮もあるんだよ」

「ああ、」



理解したようで、宮田さんが傾けていた首を元に戻す


なんか、可愛いなあ



「そういえば、決めていませんでしたね…」



って、決めてなかったんだ………案外、彼はずぼらなのかもしれない


いや、牧野さんも変なところで抜けてるからなあ………



「やったーっ!じゃあ、先生、寮に入ってよっ!!」



須田が嬉しそうに、宮田さんを勧誘する


「…別に良いですよ」


断る理由がないからか、面倒だからか、分からないけれど、宮田さんはあまり考えることなくOKした


「じゃあ、そろそろ時間ですので…。須田君以外に質問したい人いますか?」

「宮田は誰と住むんだ?」



今まで黙っていた淳が聞く



教室がまた、沈黙に包まれる




「……………さあ?」




沈黙は結局、オレが破った

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