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寒い冬に必要になるもの
いや、欠かさずあるものと言って良いだろう


それは何か


ヒントをあげよう

みかん、雪、あたたかい

これだけ言えば分かるだろう











「よいしょ………っと…」

牧野慶は久しぶりに自宅にいた

去年まではクリスマス一カ月前となれば、せわしなく動いていたのだが、今年は八尾に全てを一任したら、すぐに終わってしまった

結局は牧野の動きが悪かっただけだったということだ

暇になったのなら、普通は、教会にいなければいけないのだが、この時期の村はどこも忙しい

師走、という月に入る前になるべく用事を済ませなければいけない

教会など、どの人間も日曜日以外に来るヒマも無く、神代すら最近はぱったりと来ていなかった


そんな訳で、ガラリとなった教会にいる意味は無くなった為、久しぶりに我が家に戻ってきた


最近めっきりと帰っていなかったからか、自分の家の筈なのに、どこか懐かしく感じた
いない間も八尾が掃除だけはやってくれていたらしく、埃っぽい感じはまったく無く、それが逆にここを自宅とは違う場所のように感じさせた


靴を脱いで上がると、靴下越しにもヒヤリとした感触が伝わって、思わず身震いをするほどの室温だった


牧野の頭には、暖房をつける、という考えが浮かんだ
が、それは、ありきたりというものだった

(他に何かあったまる方法………)

少し考えた結果、牧野が出した結論は、こたつ、だった



牧野は汚い押し入れの中から、こたつと毛布を引っ張り出し、やっとこさ準備をしたところだった
そして先程のオヤジくさいかけ声である


「つかれたー」



お茶を煎れて一息つく
苦労して出したこたつに足を入れれば、とろけるような、暖かさが体全体に広がった

こたつ机の上に顎をのせて、ダラダラと過ごす

暖かさに乗せられた体はフヨフヨと眠気を誘う

誘われるがままに牧野が瞼を閉じた時



コンコン



部屋にノックの音が響いた


「はいはーい」


こたつの暖かさが離れていくのは辛いが、わざわざ訪問してくれた客人を待たせるわけにはいかない、と牧野は足早に玄関へ向かう



扉の向こう側には、無表情な自分がビニールをぶら下げて立っていた否、自分ではなくそれは


「宮田…さん?」
「……こんにちは、牧野さん」


宮田だった
機械のような無感情の声が牧野の耳に届く


「ど、どうされたんですか?」


心臓がドクドクと脈打つ
なんといっても、宮田が自宅を訪問したのだ
何か期待したって、バチが当たることはないだろう

自分と同じなのに、自分よりも端正な顔が、切れ長の瞳が牧野を見つめる


「神代の使いです。八尾さんにこちらにいらっしゃると聞いたので。」
「……ぁ…」


牧野の期待を、知ってか知らずか、宮田は事務的な声音で、言い放つと、ビニールの中をゴソゴソと探って、手紙を牧野に手渡した


「確かに………………って、宮田さん、それ………」


そんなことかと、牧野が肩を落としながら、俯き加減に言うと、宮田の持つビニールの中味が目に留まった



「……ああ、ミカンです。行きがけに石田さんからいただきました」



見ただけで、5、6個はあるのではないかと考えられる、ミカンを見ながら、宮田が答えた


「いりますか?」
「へ?」
「どうぞ」


宮田は牧野にビニールを渡すと、踵を返して、サッサと帰ろうとした


しかし、それは牧野の手によって阻まれた


「ま、待って下さい!」


振り返ると、輝いた牧野の表情があり、宮田は眉間に皺を寄せる
腕を取り、牧野は宮田を玄関から中へ招き入れた



「一緒に食べましょうっ!!こたつ、あるんですっっ!」



返事など聞かずに、牧野は宮田を誘い入れた宮田の双子とあって、傍若無人っぷりの素質は牧野にもある

といっても、極端なもので、宮田の場合は傍若無人を通り越して鬼畜の域に達しているが。



「………牧野さん」



手を引かれながら、宮田は小さく抗議の声をあげたが、牧野の耳には、その声は届かない

困ったように眉間にシワを寄せながら、宮田は引かれていった



「お茶、煎れてきますね」



後ろに花が見えてきそうなほどの笑顔で牧野は宮田に話すと、すぐに台所に行ってしまった


珍しくアクティビティな牧野を呆然と見ながら立ち尽くしていた


「はぁ……」


少したってから
宮田は天井を仰ぎながら溜め息をついた



正直、牧野の家にはあまり居たくない

もし、村人がここに来たら、宮田だけでなく牧野にまでも非難の目を向けられてしまう

宮田にとってそれだけは避けたい事態だった



「宮田さん……もしかして、忙しかったですか?」


牧野はタイミング悪く戻ってきたようで、宮田の溜め息を聞いていたようで、顔を曇らせていた


「いえ、問題ありません」


牧野の方を見ながら不機嫌そうに宮田は言う


「すいません……」


オドオドとした表情と態度は宮田が一番嫌うものだと牧野は分かっているが、どうしてもうろたえてしまう


牧野は俯きながら、こたつ机の上にお茶を2つ置き、中にはいった


重い空気が続く


いつまでも、ウジウジされては宮田も苛立つ


(どうしたものか…)


宮田が思案していると、牧野が遠慮がちに声をかけた


「あ、あの、宮田さん………せっかくですし、こたつであったまって下さい」


立ち直りぎみの牧野は、それでも完全には元気にならないようで、暗そうに告げる


牧野にとっては、宮田が自分と一緒にいて、面倒そうにしていた事が、何よりもショックだった

まさか、宮田が牧野の外聞のことを考えてくれているなど、つゆとも知らない



「……………」
「み、宮田さん…?」



眉間にシワを寄せながら宮田が睨むものだから、弱気な牧野はたじろぐ


「……そうですね」


すると、宮田は何か思いついたようで、腹黒い雰囲気を纏いながら、こたつの中に入ってきた


その雰囲気を敏感に感じ取った牧野は、警戒心を持ちながら、宮田から離れようとした


しかし



「うひゃっ!!?」



足から伝わる、冷たい温度のせいでそれは叶わなかった



「情けない声ですね、牧野さん」



宮田は依然と無表情のままだが、明らかに楽しんでいるオーラが後ろから漂う


「ちょっ、ちょっっ!!み、宮田さんっ!!?」


顔を真っ赤にさせながら、牧野が叫ぶ


宮田はこたつに入ってすぐ、ズボンを捲ると、入ったばかりで温まっていない足を、牧野に絡ませてきたのだ



「何ですか牧野さん?」



牧野の動揺など、意にも介さず宮田は言う

形良く、綺麗で滑らかな足が、牧野に絡みつく


「宮田さんっっ!」


焦りながら叫ぶも、宮田は全く聞いちゃいなかった



「どうされましたか?」



ズイと顔を近づけて、宮田が問う
その顔は無表情だが、明らかに楽しさを滲ませている

いつもの冷たい表情ではなく、熱を持った、色気のある目で見れば、牧野は顔を赤くしながら、視線をさまよわせた



「こ、困ります、宮田さん……その…」



ああああ、と頭を抱えながら、煩悩と戦う牧野を宮田は見つめる



ゆっくりと足を動かして、牧野の股関に触れると、
牧野は、さらに赤くなる
そして、こたつから身を乗り出して、宮田を押し倒した



「宮田さん………」



スイッチの入った牧野が宮田に口付ける








ことは叶わず、細長い人差し指が唇に当たった





「こたつとお茶のお礼ですから、ここまでですよ、牧野さん」





宮田はそう言い放って、魂の抜けた牧野を、グイと押しのけて、立ち上がった


裾を下ろして、雰囲気もいつもの無感情に戻すと



「それでは」



といって帰ろうとしてしまった


牧野はそんな宮田を見つめていたが、はっとすると、宮田の腕を引っ張って、もう一度押し倒した

キョトンとする宮田を見ながら、牧野は言った



「それじゃあ、私も、ミカンのお礼をしますよ、宮田さん」



綺麗に笑う牧野を見て、宮田は今日1日の自分の言動を呪った




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