無謀な恋の戦い



警察官は執念深い者が多い
それは、良い意味でも、悪い意味でも、だ

かくいう石田もある意味では、執念深いと言えるのかもしれない







「好きです、宮田さん」
「何がですか」

「付き合って下さい、宮田さん」
「どこにですか」

「イチャイチャしたいです、宮田さん」
「彼女さんいらしたんですか」






石田が求愛し、宮田がかわす
宮田医院で行われる言葉のキャッチ、もといデッドボールは、もはや日課となりつつあった


「宮田さぁぁぁん、一体いつになったらデレがくるんですかぁ………オレもう待ちくたびれましたぁ……………」
「そうですかお疲れ様ですね、一生こないでしょうね可哀相に…」


足に絡みつきながら言う石田を、宮田が容赦なく蹴る
いたっ、と小さく言いながらも離れない石田を見て宮田が言い放つ


「石田さんも飽きませんね」
「寝ても覚めても宮田さんの事しか考えてませんよっ」
「警察官って暇なんですね」
「あいたっ」

グッと親指を立てながら、爽やかな笑顔で石田が言うのが、宮田には非常にうざったく見えて、一発頭を平手で叩く


「せんせー、入りますよ?」


石田が頭を抱えて、痛みに耐えている時

かわいらしい声とノックの音がして、美奈が中に入ってくる

「こんにちは石田さん、お仕事ご苦労様です」
「美奈、お前にはこれが仕事をしているように見えるのか?」


お茶を2つ置きながら、美奈が笑顔で言った石田に対するいたわりの言葉に、宮田が抗議する


「宮田さぁん………好きです愛してます」


立ち上がって後ろから抱きしめながら、石田が言う


「あー、はいはい、私は仕事があるので」


頭をポンポンと軽く叩きながら、宮田は仕事の体制に入ってしまった

石田はそれ以上は何もしようとせず、宮田に一番近いベッドに座った



そんな二人を見ながら、美奈はくすりと笑う


―始めは絶対仲良くならないと思ってたなぁ





ミーン、ミーン

いつだったか、誰も覚えていない、何年も前の話

蝉がせわしなく鳴く、真夏の羽生蛇村を石田は歩いていた

「あっつ……」


手に袋をぶら下げながら、立ち止まって、彼は恨めしげ太陽を睨んだ

「えっと、次は…」

バサッと地図を広げて、来た道を指でなぞる


「宮田……医院っと、あったあった」


顔を上げて、周りを見渡す
病院らしき場所を発見し、再度歩き始める


中に入ると、綺麗な看護婦が一人、

「あら?初めて見る方ですね、今日はどうされたんですか?」
「あっ、いえ、診察じゃなくて」
「?」
「今日から、ここに配属された、石田です。今日は挨拶周りをしていまして……」


石田は、そういうと、袋の中から小さな箱を取り出す

「これ、つまらない物ですが……」
「あら、わざわざありがとうございます、今、先生を読んできますね」

そういうと、看護婦は行ってしまった

暇になってしまった石田は、ソワソワしながら、宮田院長を待つ


ふと、長い廊下のむこうから足音がして、そちらを見る


石田は目を見張る


容姿端麗を絵に描いたような男が白衣を着てこちらにやってきたからだ



「はじめまして」



低めで落ち着いた声を聞いた瞬間、石田は男の手をとる
完全な一目惚れだった


「一万年と二千年前から好きです、結婚して下さい」
「イヤですけど」


0コンマ3秒の失恋
まさに最高で最悪の出会い、
それが石田と宮田の出会いだった






「それじゃせんせ、私帰りますね」

すっかり暗くなった頃、美奈は宮田に告げる

「ああ、お疲れ」
「お疲れ様でーす」


宮田は、書類から目を離して、美奈に言う
そして、敬礼をしながら言う石田を見て溜め息を零す


「貴方は帰らないんですか」


石田がぱちくりとまばたきする


「え、だって、宮田さん帰らないんでしょう?」
「ええ、まあ」


嫌な予感を感じながら宮田が答える


「じゃあ、待ちますよ。宮田さんが強姦魔に襲われたら危険ですからっ!!」
「貴方の方が危険だと、私は思いますよ」


表情一つ変えずに宮田が言い放つ


「ふっふっふっ、そりゃぁ、オレの拳銃は宮田さんのハートを撃ち抜こうといつでも貴方に狙いを定めてまs」
「黙れ」


拳銃をクルクルと指で回す石田の言葉に宮田が重ねる

書類を整理し始めた宮田を見て、石田は帰るのだと悟り、立ち上がる


「宮田さんっ、帰りにココア奢りますよっっ」


宮田のコートをとってくる


「…………ありがとうございます」


そのコートを受け取りながら、宮田はココアが嬉しいのと、石田がムカつくのとで、複雑な表情をしていた


一緒に外を出る


「さむっ!!」


ブルリと震えながら言う石田を見て、宮田は呆れて、自分の首からマフラーを取った

「防寒してないから当たり前でしょう」

そういって、フワリと自分のマフラーを巻く


「み、宮田さんの香り……」
「変態か」

ドキドキしながら石田が言った



自販機でココアとコーヒー買って、二人で飲む

石田は白い湯気の立ち上がる缶を見るフリをして、宮田の方をチラリと見ると、
美味しそうにココアを飲んでいる姿があり、それは宮田をいつもより幼く見せていた


石田はゆっくりと、薄茶色の髪に手を伸ばす
フワリと宮田の頭を撫でる


「なんか、宮田さん、可愛いです」


撫でながら、また怒られるかな、なんて考えながら、思ったことを口にする


「………………」
「………宮田さん?」


いつもと違い、宮田に反応が無いことを不思議に思い、石田は宮田の顔を覗き込む





宮田の顔は、湯気がでるんじゃないか、というほど真っ赤になっていた




「宮田さんっ、もしかして、照れてますっ!!?」
「う、うるさいですよっ、石田さんっっ!!」
「ぐえっ」


嬉しさを隠しきれず、にやけながら言う石田の首を宮田がマフラーで絞める


「…宮田さん」
「うるさい」
「好きです」
「ウザイ」
「大好きです」
「良かったですね」
「愛してます」
「鬱陶しい」


いつもと同じで、どこかいつもと違う会話


宮田は石田と目が合うと、赤い顔を隠すようにうつむく


「宮田さん、俺のこと好きですか?嫌いですか?」


石田は宮田から目をそらさずに言う
このチャンスを逃したら、二度と好機が無いような気が石田はしたから、いつも以上に宮田に迫る



宮田は躊躇いがちに口を開いて、そして、小さな声で言った



「……………嫌い……………………………………………ではないです」



聞こえた言葉に、石田は幸せそうに笑った






   無謀な恋の戦い




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -