アナタと食べたい



どんな人間にも限界はある
親然り、教師然り、天才然り。

限界を無視して生きれば、人間は機能停止をしてしまう

それはどの人間にも言えることなのだ





「……チッ」

虚しくもインクの無くなった空のペンを見ながら、宮田は一人舌打ちをした

遊び盛りの10代後半から、現在に至るまで、医者と神代の使いの両方を、こなしてきた宮田には
今までも、忙しく、仕事に縛られる事は多々あった


しかし、ここ最近はいつも以上に忙しく、病院に閉じ込められる日が3日もつづいていた
その間、宮田は何も食べず、睡眠も取っていない


彼がいる部屋に積み重ねられた書類はまだ終わる気配はなく、
宮田に休む時間を与える気は0のようだ



眠さでぼんやりとする視界を、頭をふって覚醒させ、
気を抜くと思考を停止しそうな頭を無理やり回転させる為に、宮田はコーヒーをグイッと一気に飲み干した

もう一度とりかかろうと、目をつむって深呼吸をした時だった


「宮田さーん?」


ノックのあとに、自分とよく似た声
それが誰かなんて、宮田には見なくてもわかる


「……牧野さんですか?」



オドオドとしながら入ってきたのは予想通り、双子の兄だった
手には、袋をぶら下げている


「…何のようですか牧野さん……」


いつもなら、丁重にもてなすが、今日は忙しい
睡眠不足と空腹で宮田は牧野に対して冷たかった


「宮田さん、ここ3日何も食べてないって本当ですか?」
「ええ、まあ」


それがどうしたという目で宮田が牧野を見る


牧野がニコニコしながら、ぶらさげた袋を胸の前に掲げて言った




「料理、しませんか?」




中には野菜やら肉やら魚やらが入っていた
宮田にとって、これほど魅力的な誘いをこのヘタレ求道士にされたことがあっただろうか、というレベルの誘惑であった


だがしかし、そこは宮田が27年間使って築き上げた、屈強な精神がそれを制する


「…………………いえ、私は仕事があるので」


そういって宮田は書類の山は指差すかわりに、ツイと見る

牧野も書類の山を見るが、気にも介さず宮田に近寄る


「何が食べたいですか?というか、病院って作る場所ありますか?」

「いえ、だから……人の話を聞いて下さい」



からんでくる牧野を鬱陶しそうに追い払う


さすがに本気でキレそうな宮田を見て、とりあえず牧野は引き下がった


宮田は溜め息をつくと、また仕事を開始した





グーギュルルル

宮田が仕事を始めて三分、牧野の腹はすでに限界を迎え、情けない悲鳴をあげた


「お腹へりました…………」


ベッドに座った牧野はうなだれながら言う



「そうですか、ぜひ教会に戻って食べて下さい」
「…嫌です」



イラついた顔で宮田が牧野を見ると、情けなく眉を下げながら牧野が宮田から少し遠ざかる


「………何でですか」
「えっと………」


まさに一触即発
片や今にも怒り出しそうで、
片や今にも泣き出しそうだ



「牧野さん、このまま私を待ってたら、あと1日はかかりますよ」


宮田は牧野が諦めて帰るように促す


「うぅ……」


牧野は本気で困った顔をしている


すると、牧野が一変して顔を輝かせた


「私も仕事手伝いますっ!」
「やめて下さい」


名案だと言わんばかりの牧野の雰囲気を一刀両断して、宮田が断る


「宮田さぁぁん………作りましょうよー…食べましょうよぉー………」


もはや半分泣きながら、彼の腕にすがりついて懇願する


「ああ、もう、ウザイ!何なんですかっ!!そんなに空腹なら、早く帰宅して、自分で作って下さいっ!!」

とうとうキレた宮田が牧野に対して怒る

牧野は思わず床に正座する





そして、言葉をおとす




「……………私、料理できないんです……いつもは八尾さんに作っていただいてて…………
けど、今日は宮田さんと食べる予定だったから、八尾さんはもう帰っちゃってて…………」

「……………はぁ…」




牧野が視線をさまよわせながら言った言葉を聞いて、宮田が諦めたようにペンを置く


「……………家まで我慢出来ますか」


宮田の言葉を聞いて、牧野がパッと顔を上げる


「は、はいっ!!」

「では、支度をするので少し待っていて下さい」



部屋から出て行く宮田を牧野が追う


宮田の口元には微かに笑みが浮かんでいた



他でもない
   



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