君がいれば


宮田医院にて
「うぁあああああ………」
それはそれは苦しそうな呻き声が上がった




時は15分前にさかのぼる





本日は快晴

雨も笑うような眩しい太陽の光に包まれた羽生蛇村には、
何時も以上に、ゆったりとした平和な時間が流れていた


その時間を堪能しながら、石田は巡回という名の、散歩をしていた


否、目的があるため、散歩とは言わないかもしれない


石田の手には、少し高そうな酒が一本

鼻歌を歌いながら歩く彼は、
まだ酒が入っていないはずなのに、
誰がどう見ても酒を飲んだ若者のように、上機嫌である


彼の目的はただ一つ
午前の診療を終えた宮田に会うことだった


宮田医院近づくにつれて、石田の歩みはどんどん速くなった


診察終了と書かれた札を無視して、ドアを開けて、
そろりと中に侵入し、宮田がいそうな所を探す


しかし、なかなか見つからない
院長室、休憩室、看護室、資料室、と様々な場所を探したが、いる気配は無かった残すは、診療室のみとなった


「宮田さーん?」


小声で宮田の名前を呼びながら、中を覗く


すると、いつもには無い光景がそこにあった


宮田が机で寝ていたのだ


石田は起こさないように足音を消して、彼に近づく


いつも見る他人を拒むような鋭い瞳は、今は閉ざされていて、
他人を遠ざける為に、悪態ばかりを吐く唇は、少し開かれ、
柔らかい光が、彼の茶色がかった髪を包み込んでいた
その姿は穏やかそのもので、優しく綺麗だった

そこで石田は考える

石田がここに来た目的は、村の人からもらった少し高い酒を宮田と共に飲むためである

しかし、今の宮田を見ていると、据え膳食わぬはなんとやらという言葉がよく似合う

けど、宮田が熟睡する姿など、一生に一度レベルの珍しさだから、このまま見ていたい思いもある




そこで冒頭に戻る




果たして、どれが一番ベストの選択なのか、石田はいつもは使わない頭をフル回転させて考える


「……石田さん?」


うんうんと石田が悩んでいるうちに、宮田は起きてしまった


「あ、先生起きましたか?」


正直もう少し見ていたかったが
起きてしまったものはしょうがない
据え膳も諦めて、当初の目的にしようと石田が決意を固めた時だった



宮田がこちらをジッと見てきた
まだ寝ぼけているのか、半分瞳が開いていない

可愛いなあ、と思いながら石田が見ていると、




あの、宮田が、綺麗に、笑った




「こんにちは」




宮田は挨拶をすると、
石田が呆然としているうちに
さっさとまた夢の中へ入っていってしまった


「っ…宮田さんは………」


フワフワとした宮田の髪を撫でながら
当初の目的を捨てて、彼の事を抱きしめた


羽生蛇村は今日も平和である




君がいれば
 



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