結局のところ



あなたのことが好きです


こんなに短い文章を伝えるのに、自分はどれだけの時間を使うのだろうか

この気持ちを伝えたら、どんなに楽なんだろうか



いつも自分は石田さんにそう愚痴を零す。
石田さんはいつもそれを、苦笑しながら、聞いているだけだ。
彼がいうには、

『宮田さんはそういうの、得意だと思ってました』

だそうだ。

今まで無感情に生きてきた人間に、恋愛云々に対する達者さを求めるのはどうかと思うが、
宮田という人間像を見れば、確かにその言葉には納得できる。

しかし、人間、得意な分野にだって一つくらい苦手な部分がある。
自分に関して言えば、得意な感情という分野で、たまたま恋愛というのが苦手だったのだろう。



感情を押し殺すことは、簡単だった筈なのに、恋愛感情というのはどうしてこうも面倒なのだろうか。



こんな女々しい自分は見ていて気色が悪いから、なるべく会いたくないのに。

「いだだっ!!み、宮田さんっ!痛いですっ!!」

彼は、空気が読めないらしい。

眼前には、自分と同じ顔が涙目になってこちらを見ていた、その腕には見るからに痛そうな傷。

なんでも、子供と遊んでたら転んだんだとか。

27歳にもなって彼は何をバカみたいなことをやっているのだろうか。

だけど、一番バカなのは自分なのかもしれない。

「すいません、宮田さん…自力で頑張ってみたんですけど、上手くできなくて……」

申し訳なさそうに目を伏せる彼を見ながら、包帯を巻く

沈黙が続いた

小さく呟く

「あなたは…」
「……?」

―あなたは、この思いを聞いたら、どうしますか?

いつもみたいに、困った顔で笑うんでしょうか

それとも、まるで自分のことのように、泣きそうになりながら、謝るんでしょうか


どちらにしろ、自分にとっては、ツラい結果でしか無いだろう



「宮田さん…?」

「…傷は……」
「へ?」
「傷は痛くないんですか」
「い、痛いです。包帯、もう少し緩くして下さい……」
「分かりました」

明らかにキツすぎるであろう包帯を緩めながら、この沈黙を利用して、素直に言葉を告げようと努力してみる。「……これからは、私に頼まなくても、美奈に言って下されば彼女がやってくれますよ」
「…?」
「あなただって、苦手な私と二人で会話は嫌でしょう」

ああ、また、だ。


どう努力しても、素直になんかなれない。


だから、いつも変わらない。


変わる事と言えば、彼の私に対する苦手意識が高まるだけだ。


嫌になってくる。


「……すいません」

止まっていた手を動かそうとする。
しかし、それは不意に伸びてきた腕によって阻まれた。

いきなり、引き寄せられて、椅子から落ちかけて、バランスを崩す。

気がつくと、目の前には、自分と同じ顔。
そして、自分が好きでたまらない人の顔があった。

キスをされたんだと、理解するのに、だいぶ時間がかかった気がする。


「………な、何を…」

「…?あれ?す、すいませんっ!!ど、どうしてでしょう?なんか、急にしたくなって、えっと、その………宮田さん?」

自分でも分かるくらい顔に、熱が集まっていく。

きっと、今自分は彼より赤い顔をしているんだろう。

この場にいるのが恥ずかしくなってきて、治療中だというのに、医院から出ていった。

本当に情けない。

けど、この事実に胸が踊る自分がいた。

空は眩しいくらいの快晴だった。

小さな診療所には、小さなつぶやきが落とされた




「宮田さん……かわいかったなあ…………」



恋はまだ、始まったばかりである。



結局のところただの
    



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