「じゃあエルヴェ、また明日なー」
「はい。それでは」
少々酒を飲んでから僕らは王城へと戻り、
部屋へと帰っていった。
今日から警備を強化した方がいいかもしれない…と思案しながら部屋の扉の前に立ち、開けようとした瞬間、
ごとり
中から物音が聞こえてきた。瞬間、緊張が高まる。
誰かが居る。
(まさか…刺客)
僕はフェル様の側近ともいえる立場だ。殺意が向くのは珍しいことではない。過去に何度も襲われ、死にかけたこともある。
ふう、と深呼吸をしてからそっと扉に手をかける。護身術はそれなり。本当は剣より弓の方が得意だが、いかんせん弓は近距離戦に向かない。
懐に忍ばせておいた短剣を持ち、勢いよく扉を開けた。何も仕留めなくとも、追い払うだけで十分…
「あ、エルヴェ」
「何者…、…は?」
意を決して入ると、そこには僕の机引き出しを漁っている男…否、不審者がそこにいた。
「…」
「わ!ちょっとエルヴェ、何物騒なもの持って…え、あ、何、無言で近づいてくるの怖…」
「黙れ不審者!出ていけ今すぐに!」
「うわわ!ストップ!ストップ!」
不審者…リューンはあわあわと両手を前に突き出した。許すまじ。
…どうやら、リューンは僕を訪ねてきたらしい。メイドに連れてきてもらったと言っているが、信用ならない。
「ほんとだって。そりゃ、俺はエルヴェの部屋知ってたけど、そんなことしたら不法侵入になっちゃうしさ」
「何で知ってたんですか」
やっぱり不審者だ。
「…百歩譲って、メイドに連れてきてもらったとして…家探しするとは良い度胸じゃないですか…」
「あ、いや、どんなペンを使ってるのかなーって思って」
「…」
「ごめんって!大丈夫、何も盗ってないから。ほら、机の中調べてみてくれよ」
「…」
リューンの横を通り、開けっ放しになっていた引き出しを覗いてみたが、確かに無くなっているものはなさそうだ。
「…エルヴェ、酒飲んでた?」
「ええ、まぁ。…匂いますか?」
「んーん、ただ、いつもより少し顔が赤いなって思ってさ」
リューンが、つ、と僕の頬をなぞった。
「…なんか、色っぽい」
ふ、と妖艶に微笑むリューンにこそ相応しそうな形容だ。月明りも相まって、リューンの色香はいつもより数段増していた。
「…それは、リューンの方でしょう」
「そう?」
リューンは見目がいいから、少しどきりとしてしまう。顔はいいですよね、顔は。好みの部類です。でも、家探しするような奴は御免こうむる。
「リューン、用事を済ませたら早く帰っ、」
ちゅ
「…」
「はは、つい可愛くて」
「……れ…」
「ん?」
「帰れえええええ!」
リューンの胸ぐらを掴みあげ、僕は扉の外へと放り投げた。
「ちょっと、要件聞いてくれよ!」
「聞くわけないでしょう!」
ばたん、と勢いよく扉を閉める。
ああ、全く油断ならない!
…僕のテリトリーに、入ってこないで
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