本日も快晴、絶好のサボり日和なり。

執務室で書類に判を押していたピオニーは窓の外を見つめるとため息をつく。

暇だ。ヒマ過ぎて死んでしまう!

そう思っていると、ふとあることが頭に浮かんだ。


「……そういや、カイナってあんまりうろたえないよな」


悪乗りにはしっかり乗るが、やはり伊達に長生きをしていないというか。

第三者の言動により彼女が焦ったりうろたえたりしているところを見たことが無い。


「そうですね。それよりも仕事してくださいよ陛下」


ガイラルディアが煩いのでとりあえずペンを握る。ああ、間違えた判を握る。しかしどうしても集中できない。

こうなったら取る道は一つしかない。そう思ったピオニーは顔を上げる。


「……よし」


トンと書類を整えて立ち上がったピオニー。ガイはため息をつきながらそれを受け取る。


「はい、ご苦労様でし――って、まだ半分しか終わってないじゃないですか!」


「ああ、今日はここまでだ」


「陛下!?」


「カイナのうろたえた顔を見るまでは仕事はしない!」


そう言うと走り去っていくピオニー。ガイは暫くそれを見つめた後、大きく息を吸い込むと声をあげた。


「……陛下が逃走したぞー!」


どうも軍部内が騒がしい。またピオニー辺りが逃げ出したのだろうか。


「失礼します、将軍」


「どうしたの?ピオニーなら今日はまだ来てないよ」


入って来た衛兵にカイナはそう答える。


「そうですか……。って、昨日は来ていたんですか」


「うん。4時間くらい部屋でダラダラしてた」


「……将軍」


じと目で見て来る衛兵にカイナは苦笑する。

そんな目で見ても、一介の兵が皇帝陛下をたしなめられる訳がないじゃないか……というのが言い訳だ。


「自己申告によると、陛下は全ての執務を完璧にこなし、良い政策を施すための勉学に励んだ後、他にするべき事も無いため、部下の仕事の視察に来られたようでしたよ」


「…それ、何回目ですか」


「今月で八回目」


「……その内、参謀長官に叱られますよ」


衛兵は呆れたように言うが、残念ながらカイナにその言葉はあまり通じない。


「まさか。叱られるのはピオニーであって僕じゃあない」


「……はあ」


「ジェイドの所にいる確率のほうが高いよ。あそこ、直通の通路があるから」


「マジですか」


「マジです」


衛兵はため息をつくと、部屋を出ていく。

その気配が十分に遠くなり誰も来ないことを確認すると、カイナは天井を仰ぎ口を開いた。


「…で、そろそろ出てきたら?」


「おう、分かってたか」

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