とりあえず宮殿じゅう…ジェイドの部屋まで調べつくして、最後に謁見の間に訪れたカイナたち。 ピオニーはそこにいた。のんきに鼻歌を歌いながら。 「よう、どうしたお前ら。そんなに息切らせて」 「…いつからそこに、陛下?」 ガイの言葉もやや疲れが滲み出ている。なにしろ、あの後ピオニーの目撃情報は軍本部と宮殿内のあちこちで出たのだ。 「いつからって…さっきからずっとここにいたぞ?」 「そうですか。それなら文句はないですじゃよ」 ピオニーも無事に見つかった事だし、もう仕事に戻って良いだろうと思ったカイナは背を向ける。 「それじゃ、私は帰りますよ」 「おっと、待ってくれカイナ」 「…どうしました、陛下」 カイナを引きとめたピオニーは、頭をかきながら彼女に近付く。 「いや。今日は色々と…迷惑かけたな」 「大丈夫だよ。こういうのも臣下の務め、ってね」 「…そうか。すまんな」 そう言って笑うピオニーを見て、クロームは首を傾げる。 「…今日の陛下、おかしくありませんか」 「気のせい…と言いたいが、そうでもないかもしれないのぅ」 それはよく分かっていた。だからこそ、カイナはピオニーの様子をよく観察しながら口を開く。 「……陛下、何か言いたい事でも?」 「ああ…そうだな。そろそろ言ってもいいかもしれない。今日もからかわれたしな」 そう言うと、ピオニーは真面目な表情になってカイナを見つめる。 「カイナ…」 「ピオニー?」 首を傾げるカイナ。 この先が成功するかで、今日一日の行動の成否が問われる。 そう思ったピオニーは、意を決めてカイナの手を取った。 「カイナ、俺のものになる気はねぇか?」 「陛下!?」 「…それって……その、ピオニー」 顔を真っ赤にさせたカイナは一歩後ずさる。 カイナはこういう経験が無いから反応に困って動揺するだろうと思っていたが、ここまでとは思わなかった。 『カイナの動揺した姿が見たい』。そんな些細ないたずら心が発端だが、これだけで今日一日無駄にしたかいがあるだろう。 しかし、その後に見せたカイナの反応はピオニーの予想をはるかに超えたものだった。 「……僕でいいの?ピオニー…」 両頬に手を当てたカイナは、顔は真っ赤なまま、潤んだ目でピオニーを見上げる。 その瞬間、確かにその場が凍り付いた。それはもう色んな意味で。 どうするんだ、俺! ピオニーが心の中で慌てふためいていると、カイナはにやりと唇をゆがめる。 「……なーんてね」 「え?」 手を離したカイナの顔にはもう赤みなど見えない。 「まだ諦められないくせして、そんなこと言うんじゃないよ」 その言葉の意味を理解したのは数秒後。ハメるつもりが見事にハメられたということだ。 「お前…いつの間にそんな事覚えた」 「キミの仕込みだよ、ピオニー陛下」 唇に指を当てながらそう言うカイナは実に愉快そうだ。 「あー!くっそ、やられた…」 「まだまだだね、ピオニー」 頭を抱えのけ反るピオニーに、愉快そうな笑みを浮かべたカイナ。 ゼーゼマンたちが我に返ったのは、三十秒後。 いつから見ていたのかは知らないが、殺気を漲らせた死霊使いが彼らの背後に立ち…… …その後のことは、読んでいる方々のご想像にお任せしよう。 END |