ガコンと何かが外れる音がすると、ピオニーが天井裏から顔を出す。


「…まさか僕の所にまで通路を仕込むとはね」


しかも…本当にどういう考えからか、天井から。

最近ネズミがうるさかったのはこのせいなのか。というかどうして天井裏を這ってきたはずなのに、埃一つ被っていないんだ。


「おう、これも愛しい部下のため」


「そして自分の楽しみのため」


カイナの返答に、椅子を引き寄せながらピオニーは笑う。


「その通りだ。さて、俺はその辺でくつろいでいるからお前は仕事してていいぞ」


「……それ、僕の台詞なんだけどなぁ」


「一国の大将がそんな小さいことを言うな。小さいのは背丈だけで十分!」


はっはっはと笑いながらピオニーは前にのめり、ぐしゃぐしゃとカイナの頭をなでる。

ああ、今の台詞はちょっとカチンときた。


「そうだね。陛下は30代後半になっても妻どころか恋人さえいない侘しい生活を送っているのだから、少しは大目に見てあげてもいいかもしれないね」


「……段々ジェイドに似てきたな」


「近くにまともな見本がなかったせいかもね」


せめてネフリーがグランコクマにいればよかったのに。そう呟くとピオニーは頭を振る。


「そうか。それは可哀相に。一体誰がそんなに酷い環境を構成していたんだ」


「鏡の前に立ってみるといいよ。その構成していた一端が見えるから」


淡々とした口調でカイナがそう告げると、ピオニーは暫く黙りこむ。

不躾……ではなく、非常に気に障ることに、じろじろとカイナを観察したあと、ゆっくりと口を開く。


「……なぁ、カイナ。機嫌悪いか?」


「それはもう、どこかの皇帝様が脱走を繰り返すせいで、僕の所にまでしわ寄せが来てしまってね」


「なるほど」


手で積み上がった書類を叩くと、ピオニーはきょとんとした表情を見せたあと納得したように頷く。

そして、何を思ったか立ち上がるとポットに手を伸ばした。


「納得する暇があったら帰って仕事してよ…。それと今日はコーヒーだからね」


紅茶派の彼にとってそれはお気に召さなかったらしく、ぴたりと伸ばした手を止めると、残念そうにブラブラさせた。


「……まぁ、今日は有休だ」


「…皇帝が給料制とか聞いたことないんだけどね。まあ、気が済んだら帰ってゼーゼマンに叱られてよ」


「おう。気が済んだらな」


にぱっと笑うピオニーを見て、帰る気ないなこの人…と、一瞬カイナがそんなことを思ってしまったのは、思い込みではないはずだ。

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