紅を連れた血濡れの月を見る度に、思い出すのは何時も彼。一心の曇りもなく見据えられた未来へ馳せる視軸が切れそうな程に鋭敏で憐憫で。魅る程に、嫌気がさした。

満ちた月の晩。
皆の寝息が深くなった頃、彼は私を外へ連れ出した。


Scarlet
::綾さんへ|6000キリリク|ジェイド|甘夢


「ちょっと肌寒いね、大佐」

ストールを肩に巻いてふるりと身を震わせれば、彼は少し大袈裟にじっと目線を向ける。どうやら呼称が気にいらなかったらしい。

「わざとだよ、ジェイド?」

ふっと溜め息に似た笑いを連れて、彼はnanashiの手を引いた。惹かれているとお互いが認識しあっていても、俗にいう"付き合う"という間柄ではなかった。一言、どちらかが口に出しさえすればそういった関係になることは明らかだが、どうも歪曲している。

そんな靄かかる関係にも慣れてしまうほどに、息のつく間もない旅の中、お互いは気付かぬ内にその距離を縮めつつあった。

砂ばかりが流れるシェリダンの地上。見上げさえすればダイヤが弾けて散らばり、月がその存在を誇張している程に明るく照っていた。

「あの月、真っ赤。恐いくらい」

ほう、と吐いた息は感嘆。憑かれたように月に奪われた視線をなぞり、ジェイドもまた空を見上げ紅をみた。

「紅月は嫌いですか?」

少し困ったような顔をしてnanashiは頷いた。紅月の暗示は、まさしく"彼"であったから。

「うん、そうだね。全部連れていかれそうで…なんだか恐いかな」

月灯かりが彼女を仄かに照らす。その横顔が淋しそうに項垂れたものだから、彼は思わず手を伸ばした。それは素早く、隙のない、あっさりとしたものだった。

到底及ばない身長差故に、両手でくるまれたなら身動きが出来ないのは明白で、だから彼に自身を委ねるしかなかった。その心地良さに、眠気のようなふわふわとした穏やかな空気が流れていくのがよくわかった。

拘束から顔を出し、ジェイドと視線を交えた。その後は、とても自然で。お互いの想いが交差する。

離れた彼女はそっとジェイドの耳元で囁いた。

ほらね
全部連れてかれたでしょう?



赤く染まる月に同じ、その存在を嫌でも目立たせてしまう自分自身に、疲れてしまう時もある。そんな彼の側で彼女の心が和かに揺らめく中、月光は燦々とそんな二人を包んでいた。

不意に絡まる指に、愛しさが溢れて、彼はその緋色の瞳いっぱいに彼女を映して微笑んだ。



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