「ほらイヴこれをやる!」

ずいと目前に突き出されたものが顔をくすぐって思わずくしゃみか出た。

「へくしっ」

埋もれたままちらりとみればそれは簡素な花束で、包みは私の好みでモデストなオレンジ色。…なんで?素直に首を傾げた。誕生日でもなければ記念日でもない。そもそも記念日と言っても恋人同士でもなければ皇帝と部下という間柄。変に期待したところでその関係がなくなることはない。だから早々に仄かに抱いた気持ちを掻き消したというのに。

何だってまた。
期待させるようなことをするんだろう。

慣れてしまった以上返す言葉は決まっている。

「陛下、これを私に?戯れは結構ですよ。それより早く溜まった書類に目を通して下さい」

にこ。大佐に倣って得意になってしまった、笑っているのに目は笑っていない。それでも何事もないようにニカッと歯をみせて笑うピオニーに適わないと知りつつグッと堪えなければいけない。

所詮期待するだけ無駄なのだ。相手は皇帝、身分に差がありすぎる。

「今日はバレンタインだぞ?」

花束を突き付けたまま、彼は快活にそう言った。ああ、なるほど。

「チョコの催促にそこまでの準備は不要ですよ。わかりました、職務が終わり次第ご用意しますので」

お戻り下さい、そう言いかけた時。一国の皇帝はあろう事かその場で膝を折り跪いた。座っていた椅子から思わず転がり落ちそうになる。なんの冗談かわからない。とにかく自分より低くあるピオニーに慌てて椅子から飛び降り床にペタリと座り込んだ。ピオニーの目前に。その瞬発力は自分で誉めたいほどに速かった。笑うどころか、真剣な彼の瞳に全て浚われてしまいそうになる。

「他の地方ではな、バレンタインには男性から女性に花束を贈るらしい」

もちろん
気持ちを伝える為に

そう言われて、尚も気持ちを偽り続けるなんて。できるわけがなかった。きっと身分のことで気持ちを隠したことさえ彼は気付いていただろう。ある種の賭けのようなもの。

お互いが気持ちをさらけ出す、唯一の。

答えをいう前に視界は滲む。ぽたぽたと溢れる感情は、偽った罪悪感すら流していく。

そしてそっと花束を受け取った。今はこれが精一杯。震える指先と濃厚な花の香り。落ち着いた頃には伝えられるだろうか。

花束の意味
覗けばかすみ草の中に一つだけの薔薇

その意味を知った頃にはきっと…

* * *

VDネタでした


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