単調なノックを2回。返事は待たなくともいい、すぐにドアノブを回して入る。来る時に覗いた窓からは灯りがなかった。当然その部屋は暗い。しかし、部屋の主はいるらしい。辛うじて薄く伸びる月明かりはその姿を捕らえている。…隅でうなだれていた為驚くこと必至。

「ユーリ?どしたの。明かりくらいつけなよ」

苦悶に満ちた顔で膝を抱えて、…時折呟きが聞こえた。

…ナツ…俺の…

「え何、大丈夫?」

ユーリがこんなに落ち込むなんて。なにか大事があったのだろうか。うずくまる彼の肩にそっと手を置いた。

「俺のドーナツが…ないんだ」
「えドーナツ?」
「楽しみにしてたんだ、チョコの!」
「…あそ」

端的に返せば酷く傷付いたような反応をされた。らしいと言えばらしい、甘味を前にした彼はものすごく…かわいい。だから毎年この日だって、その笑みが見たくて渡してた。最初は特に思うことはなく喜ぶからって。当の本人も本命だとか義理とかでなく、お菓子を貰える日と解釈してくれていた点気楽だった。後腐れもなく済むし、幼なじみという間柄彼を意識をしたことはなかった。

のに。いつしか気付いてしまったのが、恋心というもので。
「まあ、ちょうど良かった。はいこれドーナツじゃないけど」

シックな黒無地の包装紙に深い紫と藤色のリボンを巻いたそれは、彼をイメージして…と思ったのだがいざ渡してみるとどことなく恥ずかしくなった。動きも便乗してそわそわしてくる。

「今年はブラウニー…です」

そう言えばキラキラと瞳を輝かせる辺り、堪らなくすき。自分しか知らないかもしれない、そんな一面が特別な気がして。

今は想いを告げなくても、充分だ。叶わない恋というより、今更という感じで。想いを告げるには絶好である日であっても、きっかけとして活きてくれなくなるほど。同じく過ごした日は長く、それを理由に流している。

結局は
臆病なだけ、なのか。

それでも。嬉しそうに菓子を頬張る姿を見ればまたそれも一興なのかもしれない。来年も再来年も。変わることなく彼の姿を見ていたい。

なんだかくすぐったくなってそっと微笑んだ。

「あラピードおかえり」

いつの間にやら部屋に入ってくつろいでいたラピード。ペロリと口についた食べかすを拭っていた。

控え目な糖分
(すきだ)
(…は?)
(イヴの作る菓子)
(なんだお菓子か)
(なんだったらよかったんだ?)
(…)

確信犯が一人。


* * *

言わずもがな
VDネタです

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