※TOV映画要素含。エンディング






さよならは言わなかった。

また会える、って3人とも共通して確信があった。腐れ縁。その縁はついに3本の道に枝分かれ。今日を境に、今この瞬間から。なんだか私たちを隔てているようで少しだけ切ない気がする。

長い黒髪をなびかせながら蒼い犬を連れて、シゾンタニアに背を向けて闊歩する姿はついに見えなくなった。今度は私が背を向けて旅立つ番。どくん、と心臓がひと鳴きする。

「ユーリ…行っちゃったね」

まるで人ごとみたいに口からこぼれたものだから、私の隣でフレンは軽く頭を小突きながら私に向日葵みたいな笑顔を向けた。ああ、この笑顔ともしばらくお別れなのかな。そう思うと別れが辛い。

「イヴもこれから行くんだよ?」
「うん。わかってる。…多分」
「多分って」

くすくす笑うフレン。彼は私のすきなひと。だから何気ないピロートークだって噛みしめたくなる。…彼に対しての依存、まだ抜き切れてなかのかも。

騎士に志願したのも、言ってしまえばフレンの近くにいたかったからなのかもしれない。色恋が優先な選択肢なんて、笑っちゃうね。…一緒にいたいというより、彼が目指すものを私も見てみたかった。あの真っ直ぐに前だけみる瞳が、すきだった。ずっとその瞳の先を私も自分の志のように追いかけてた。

でも。それじゃだめだって、誰より自分が強くそう思った。私は私が目指すもの、その先を見てみたくなった。それは、きっと強くなれた証拠のはずだから。だから。その先を見るまではこの気持ちは大事に取っておくんだ。

「いってらっしゃい、イヴ」
「いってきます、フレン!」

笑顔を覚えていてほしい。だから向日葵には負けるけど、めいっぱいの笑顔で応えた。

「気をつけてね」
「…うん!」
「忘れ物はない?」
「うん、だいじょうぶ!」
「慣れてるからって野営はあまりしないように」
「うん!」
「あのさイヴ」
「うん!」
「すきだよ」
「うん! もうフレンてほんと過保護なんだから!」
「…え?」

だいじょうぶだよ、いってきます!なんて最高の笑顔で応えて一歩踏み出した。踏み出そうとしたら、時間差で理解し始めた頭の中でたった一言。流れる脈の中に入り混じって体全体に巡り始めた。…あれ?…さっき、フレン…なんて言った??

くるりと振りかえって、ばくばくした心臓を堪えて。今にもその胸に飛びつきたい衝動を堪えて。

「ねえ。フレン」
「ん…なんだい?」
「私、がんばるから」
「うん…」
「私が帰ってきたら、さっきの言葉…もう一回ちょうだい?」
「ああ、いいよ」

照れたような。はにかんだような。フレンの笑みに心が騒ぐ。実る想いに歓喜する。

すうと肺に空気を送り込む。めいっぱい。その反動で吐き出した言葉は

「フレン…だいすき!」

寂しいけれどその言葉を巡らせて私は呼吸する。肺の奥よりもっと奥の方まで。大きく手を振って、しばらくお別れ。さよならをいっていきますに変えて。

隠してた想いに痛みさえも伝えて揺れる。ただいまとおかえりの言葉を、きっと未来は待ってくれるはず。微かにのぞく未来に、君の笑顔が浮かんでる。


恋のような温度で


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