彼女は酷く傷ついた顔をした。 後悔した、というほど全ての出来事に執着はなかったはずで、ただ流されるまま成るがまま、道化になって誤魔化して騙して。罪悪感?そんなものを感じるまで自分は自分として生きてない。だから何も感じない。排他的に刹那的に。けれど既に壊れた心臓のくせ、今も無機質に脈を打つ。その音が、イヴの流した涙をみて一層、 大きく鼓動したのは、なぜだろう。 ―…嗚呼、やっと来るべき時が来たわけね。ははっ、いいじゃない、せめて最期に仲間(そう思ってくれるかは別にして)助けて死ねるなら本望よ、本望。あー俺様かっこいい!本当、もう何やってんだかねえ。腕とかもう痺れて感覚ないんですけど。んー、もういいかな離しても。なんだかな、いざってなると離せないってどうよ。だってぺちゃんこよ全く。…。なんでだろ。イヴちゃん、なんであんな顔したんだろ。え、俺様自惚れてもいい?ねえいい?…なんてな。優しすぎんのよ、あの子は人一倍。よーく知ってるわ、だっていつも見てたもの。…だからよ、特別俺様だからって都合よく解釈しっちゃってまた。あ、涙出そう…― 浮かぶ。 ついさっき見た光景が。 青年に無理やり腕を引かれて見えなくなる姿。天井やら崩壊し始める音に紛れて、千切れそうなくらい叫んでた。俺様の名前を。 …もし、もう一度会えたら。 なんて、願い。俺様には似合わない。 けど。 そのifが起こったなら。 ひとつだけ聞きたいことがある。 自嘲気味に笑って脱力したら。 それが最後だった。 ・ ・ ・ ・ ・ と、思ったのに。 どうやらifは起きて、俺様はまたイヴちゃんの前に姿を晒すことになる。流石シュヴァーン隊。流石俺。 …。でもあの時聞いたイヴちゃんの声が焼きついて離れなくて、どう登場しようか考えてたら、結局いつもの道化に混じって出て行ってしまったわけで。イヴちゃんのふるふると震える肩越しに込みあがる怒りを感じて、…しまった…と思った。 弾き飛ばすくらいの衝撃を連れて、イヴちゃんが俺様の胸を叩く。ばか、きらい、と小さな悪態を何度も繰り返す。涙でぐしゃぐしゃになるのも構わずに。無くしたはずの心臓がみしりみしりと音を立てて締まっていく。裏切ってごめん、嘘ついてごめん、傷つけてごめん、騙してごめん。思いつく謝罪を彼女に与える。すると、キッと睨んで彼女はこう応えた。違う、違うと。首を横に振って。 「死に場所を探してたことが一番嫌だったの。生きる意味なんてなくてもいい。幾らでも創ればいい。でも死んじゃうことに執着しないで。死んじゃうことに…意味を見つけてしまわないで」 吐き出された言葉に。眩暈がした。 くらりと。眩しすぎる、眩暈が。 ―なんで、あの時泣いてたの?― 素朴な疑問、その答えは聞かずとも知る。ただもうがむしゃらにむちゃくちゃに、彼女を掻き抱いて、鈍痛のように蝕む痛みとうるさいくらいの鼓動に、芽吹いた想いを誤魔化す気にはなれなかった。 痛みを得る生者 願わくば、君が俺の生きる意味であるように 110302up short top |