独りかけ離れて高い境地に佇む貴方を独り見送る様にして、ただ待つだけの私。

泣かないと決めたのに。

貴方に不釣り合いな女でいたくないと、気丈で在ることを強いていた。その障壁が崩れたなら、邪な感情が堰を切ったように雪崩れ込んでいく。


stay aloof


風を連れて何処までも高く、悠々と游ぐ彼をダアトにある自室の窓から確認したなら、もうその時にはドアを開け放っていた。大人げないと、イヴは思うも駆け出す足音は早まるばかり。彼が入口に手をかけるよりも早く開かれた扉に面食らう彼に、笑みを連れて迎える彼女。

「おかえり、アッシュ」
「……ああ」

不機嫌な応対が胸に刺さる。体調が芳しくない近頃の彼を知っている為、無闇にその思いを吐露するわけにもいかない。だからこそ、モヤモヤとした気持ちが積もり積もっていった。部屋に戻ったなら、留守の合間を収拾するべく軍事の話ばかりで、イヴは余計、二人にできた硲を感じて居心地悪く思った。上の空な視軸にアッシュは舌打ちする。

「おい」

呼ばれる時すらこうだ。せめて名前で呼べないものだろうか。些細なきっかけは、未だ埋まらない寂しさを怒りで代弁するかのように沸々と浮き上がらせる。

留守を預かるとはいえ容易ではなかった。その間の気苦労に対する労いすら彼は口にしない。久々に会う、仮にも恋人にその仕打ちはあんまりだと、ぐるぐると巡る汚ない感情ばかりが沸き上がってくる。

「アッシュは平気なの?」

唇が微かに震える。暫く会えなかったことに対しての質問に、彼は苛立ちながら吐き捨てるように言った。

「子ども染みた拗ね方してんじゃねーよ」

積もる感情はただ一言で現せられるようなものではない。そればかりか今まで抑えてきた寂しさすらも否定された気がして、怒りに変わる。

「アッシュにある余裕、私にはないよ」

私ばっかり…

「なんでこんな惨めなの」

言いたくなかった。塞き止めていた言葉が吐き出されていく。それは言葉にすらならない、断片的な想いの数々。

一頻り言い終え、肩で息をするイヴにアッシュは抉るように言った。

「辛いことしかねえ。お前はそれをわかってたんじゃなかったのか?」

俺を選んだのはお前だ

「俺と俺を蝕む呪われた運命を受け入れることを、お前は選択したんだろう。だったら」

俺は今更お前を離すなんざしねえ

お前も俺と、その苦衷を歩め



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