朝日を迎えたイヴは、未だ胸の中を行き来するやりきれない気持ちを馳せたまま目覚め、溜め息をついた。着替えて自室を開けばそこに。 「ぶひ」 迎えるようにそこにちょこんと座るのは、陛下の愛豚兎。ぱたぱたと耳が揺れている。 「用があるのは君じゃないの」 「んなら、可愛くないジェイドの方に何の用だ?」 声の主はこの国の王。自分と関連付けていうなれば、未来の旦那様、だ。あざとく訊く彼に、特に気を散らすことなくイヴは答える。 「軍務のことよ、ピオニー」 「もう軍は退任したろ?」 「でもひと月しか経ってないもの。まだ手を掛けなきゃいけないことは山ほどあるわ」 歩き出すイヴの腕を掴みピオニーは制止させる。 「まあ待て、執務室に行ってもあいつは今いないぞ」 「どうして?私この時間に約束したわ」 「…ジェイドの婚約者いただろ?」 一瞬ドキリと鼓動する。しかしジェイドが執務を放って、婚約者となにかあるとは考え難い。イヴはピオニーの言葉を待った。それは余りに衝撃で、不可解な内容だった。 「殺された、今朝」 「…え?」 私ではない。内心思った。表情には出さずに。確かに胸元を血で染めたが、擦り傷程度で致死にいたるわけはない。 「まあそういうことだ。暫くは、そっとしといてやれ」 「うん…」 影るイヴの表情に何を読み取ったのか、ピオニーは彼女を引き寄せ、唇に触れた。 ←prev|next→|short top |