「あの人はね、私のものなの」

知ってた?知らないわよね、と。無邪気にくすくすと笑う彼女にジェシカの背筋に鳥肌が走る。

「私は、婚約しゃ…よ」

震える体に鞭打ち、彼女もまた女性としてのプライドと抵抗を口にした。ジェシカの言葉にイヴは一度ぴくりと反応したものの、それが何か、と言うように首を傾けた。

「紙の上の、でしょ」

真に誓いを立て合うのは自分。世間一般の婚約やら結婚だとか、そんな御託は彼との間に必要ない。貴女がただの婚約者であるなら、それはそれでよかったの。

「大人しくその称号だけで満足していればよかったのに、令嬢であろうお方が品なくでしゃばりすぎたわね」

充分な皮肉でイヴは彼女を責め上げる。ジェシカは根限り皮肉を跳ねて、イヴと鋭く瞳を混じ合わせた。

「私はあの人の視線の先に…誰かを見ていること、知ってたわ。恐らく貴女なのでしょう?」

だから何もしてない。誘惑めいたことも、男の欲を駆り立てることも。私はひたすら待っただけ

「けど私を犯す様に深く抱いたのはあの人。彼の求めたことを、私は受け取っただけに過ぎないわ。私達が紙の上での関係だろうと構わない。でも貴女は紙の上での関係ですらないじゃない。不純だわ」

真っ直ぐに言いきるジェシカの言葉に偽りはないだろう。だからこそイヴの感情は大きく波打つ。激し過ぎる嫉妬。燃える様に、身体中が赤く染まる。ああ、彼が惹かれるのもわかる。女の勘、だろうか。そんなことを思っていた。

ジェシカは続けていう。

「構わないの、私」

彼が誰をみているとしても私以外を抱いたとしても私に心が向かなくても。

「彼との未来を約束されているのは、私だもの」

聞いたイヴは一瞬間を置いて、笑った。思わず高らかに。我慢しきれずに次第に激しさを増していく。気でもふれたかと思う程で、ジェシカは出来もしない後退りをした。

なんだ、その程度

「私はね、あの人が私を向いていないだけで正常でいられない」

わかってる、これは狂愛。

「私は彼の全てが欲しい、余すとこなく。だから」

貴女みたいに中途半端な愛情。

「彼に向けないでよ、汚ないなあ、もう」

ジェシカに向けた満面の笑み。そう恐るるに足らない。イヴは知っている。そんな女に、彼が心から振り向くことはない。

これは必然。


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