「おや」

気付けばふと目で追っていた。

外はしとしとと静かに雨音を立てている。その中を足早に駆けるイヴの姿があった。雫にうたれて下を向いた花、それの並ぶ壇の前で腰を落としたイヴは様子を伺うようにじっと花の隙間から奥に視線を流していた。手招き、しているようにも見える。

彼女はその場を動かない。徐々に染み込んでいく水滴ですっかり軍服の蒼が濃くなった。気にも止めないのか、それ程夢中になっているものの正体は多少気になりはする。

「全く…」

それを言い訳に自身を後押しして向かう先。窓際から、彼女の背後へと足を運ぶまで。相変わらず水にうたれることを厭わない行動に少なからず呆れてしまう。けして暖かいという気温でもなかった。寧ろふるりと身震いするくらいには冷ややかだ。

ようやく、目当てのものが顔を出した。にぃ、と。か細く鳴いた声は少なからず警戒を込めている。同じく水を含んだ猫はまだ幼かった。耐える手段を知らず、弱々しく体を震わせていた。

顔を出しこちらに歩んで来たそのこを優しく抱き上げて、イヴは軍服の中へと忍ばした。

「ファーストエイド」

彼女の発した治癒術に事の発端を理解した。


そして、安堵したような、綻んだ笑みに。くらり、と。眩暈がした。


同時に。彼の存在にも気付いたらしい。

「大佐、風邪を引かれます…」

と言ってはみるものの子猫を両腕に抱えているため、前髪に流れる雫は払えない。あ…、とそれに気付いて申し訳なさそうに困惑する彼女の表情を見て、ジェイドの口角がにっと上がった。

(人に言う前に貴女はどうなのですか)

「水浸しな貴女のそれを拭う甲斐性くらいはあるんですよ」

彼が伸ばした腕、蒼いグローブ越しに伝わる体温を頬で感じた。指先がゆっくり顔に張り付いた髪を払う。濡れたそれを拭うように手のひらが頬を被った。

「た…大佐…?」

顔が熱を帯び始めたのを合図に、ジェイドは彼女の腕を引いた。


それはただ一瞬
の、不覚。

奪われた心を嘲るように、にゃあ、と一鳴きした猫ごと君を連れて帰ることに決めた。



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