彼を濡れた瞳で見下ろした。酷く淡白に返される視線にはもう慣れた。頬に手を滑らしてみれば自分よりも幾分透き通るような白さに嫉妬した。妙にこの人は色気がある、女の自分よりもずっと。けれどなぞった喉は男性特有のそれで、上に乗ったことでわかる胸板の広さ。こちらから仕掛けた口付けの主導権は既に彼にあった。漏れる息に欲情する。熱っぽくなる吐息に頭がおかしくなりそうだ。交錯する紅い瞳が、じっと捕らえて離さない。

離れた口から紡がれた言葉は聞き取れないほど小さく囁かれて。結局それがなんだったのか、わからないまま…。





「っていう夢を見たの!」
「そうですか。それで? なぜこうなっているんです」
「夢の続きでもしてみればまあ続き見れるかな、と」
「そんなお目出たい思考働かせる前に積もり積もった書類をなんとかしなさい」
「ちっ」

惜しむことくらいすればいいものを、押し倒されたその状況に眉根一つ変えない鉄壁な理性に若干むしゃくしゃする。けれど一つくらい夢通りでもいいじゃないかと、その状態のままキスを落とした。ら、先程の白昼夢はデジャヴだったのだろうか、主導権を握っていたのは既に彼の方だった。
夢に醒めて
腹が立つくらい好きですよ。と、囁く声は致命的な麻痺を残した。


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