朝か夜とも判別のつかない時間にジェイドは物音一つ立てずに廊下を歩いていた。香料のきついベタベタした香りが纏って居心地が悪い。部屋のドアに寄りかかっている人物を見れば更にそれは強くなって。はあ、とついた溜め息を合図に彼女の口が開いた。

「大佐。もう少し御自愛下さい」

向けられた視線は軽蔑と呆れ。それともう一つ

「貴女が憤る理由がわかりませんね」
「…本当に…そうでしょうか?」
「では訊ねても宜しいので?」

偶々にしてはタイミングのよい出会い頭にその目が赤く腫れている理由。それから、今夜はよく眠れましたか?と問われればカッとなる頬。

彼の喉から笑いがこぼされていた。下唇を噛んで眉を潜めた彼女はいたたまれなさに背を向けてその場を引いた。ところで

「イヴ」

その腕を取った。驚いて瞬いた瞳からパタパタと涙が散って。謹慎無く綺麗だと思った。

暗がりの中。探るように頬をなぞり唇に触れた。その距離を離そうと呻くイヴがジェイドのそれに抵抗した。幼猫が噛みつくかのような些細な抵抗、だった。

「その…纏わりついたきつい匂いが…嫌いです」
「ではそれが無ければ宜しいので?」

無言は肯定。より深くなるキスに気持ちが重なって。けれど酔うくらい鼻をつく芳香に嫉妬してもう一度噛みついた。



噛みつくキスがお好みですか?
噛まれたくないなら私だけ見て下さい



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