軍位を昇りつめていく彼女との距離。皇帝と臣下。直接的には近づいて。間接的には、うんと遠く。

その距離に嫌気が差したなら。
今からでも遅くはないのだろうか。




何が変わったのか、と訊かれれば。諦めることに慣れてしまう程大人になってしまった自分と、得手不得手を想定して選択する手段を覚えこんでしまった相手にある。抗う程、必死になることも無意味だと。わかりきってしまった。

「上の空、ですね。陛下」

呆れているわけではない、寧ろ心配。それが幼馴染としてのものでなく、家臣としての社交辞令にまで成り下がっている。気付く度に、心が軋む気がした。雪の街で過ごした日に抱いた気持ちが淡くなっては奥の方で燻ぶっていく。

再び紡ぎ始めた彼女の言葉も、耳には入らない。ぼんやりと見上げれば、軍に入りたての彼女を思い出す。蒼い軍服に着せられているのか、着られているのか。容姿と浮いたそれに苦笑しては膨れた彼女は、今では押しも押されぬ立派な軍人。着慣れてしまったのか、見慣れてしまったのか。お互いを見るフィルターが変わったのはいつだろう。随分昔だと思う。

「ピオニー」
それだけで。そう呼ばれるだけで。

「…いつぶりだ。お前がそう呼ぶのは」
「私が」

貴方を諦めてからよ。

「そうか」

同じく、諦めていたのか。だからと言って、気持ちを伝えあうこともしない。綺麗に引かれた二人の間の線。酷く淡白な彼女の言葉は、嘔吐感よりも胸を圧して息苦しい。



そっと頬に、触れる。生温い体温。と彼女の、手。



「…イヴ?」



離れてから気付くくらい突飛な、イヴのキス。



「ピオニーが、キスして欲しそうだったから」

淡々と。添えられた掌に自分のそれも重ねて、まどろみに近い恍惚な感情に忠実になれば。荒々しくその唇を奪う自分がいた。

貴方に近づく度に、貴方とのこの先がないことが浮き彫りになって…それが、苦しかった

イヴが溢した言葉と涙、その筋をなぞった時には。草臥くたびれた決まりごとに抗う術を模索する自分がいた。



運命と君と改革の夜
俺は皇帝だ、変えられないものはない



E N D




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なんだかんだで書きやすいピオニーが好き。

101003up






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