コンコンと控えめに扉を叩いてでもわりと強引に扉を引っ張り開けると、まるで海に沈む碇のように身体をベッドに沈ませている奴を発見した。そしてすぐに驚いているような円い瞳と視線がかち合う。上気した頬に汗で前髪が張り付いた額。余程しんどいのか大きな瞳はとろんと潤むように水分を含ませて微睡んでいる。なんかえろいな…。なんて中二男子的な考えが頭に浮かんだのを慌てて振り払った。いけないいけない不謹慎だぞわたし。もしここに真田が居たら、けしからん!なんて言って竹刀で頭をすっぱたかれそうな勢いだ。うん、そうに違いない。だって真田ってば女子にも容赦ないもんなぁ……、あ、特にわたしにね。

「大丈夫ー?かなりダウンしてんじゃん」
「全然いつも通りだっつの」
「またそんな見栄張っちゃって…」
「うっせぇ」
「雑炊作って来てあげたけど、食べる?」
「!、まじか食う!」

その一言にすごい勢いで食いついた丸井はあんなに気怠そうだった瞳が今ではキラキラと期待に輝いている。「卵?それとも梅干し?ま、どっちでも食えるからいーけど!」じゃあ聞くなよ。とんだ矛盾たっぷりな質問に思わず突っ込んでしまえば、だって気になるだろと丸井は唇を尖らせた。あーもういちいちかわいいな!なんて感じにまた思わず口に出してしまいそうになったのを今度こそ堪える。あぶないあぶない、これじゃあただの変態みたいじゃないか。ここに柳くんが居たらすぐさま、変態以外の何者でもないだろう、と無情にすっぱり断言されてることだろうけどね。真田と同じくして柳くんもわたしに厳しいのである。ついでに言うと幸村くんも。……ってわたし三強にこっぴどく嫌われてるような気がする。けど気のせいってことにしておこう。









「あー上手かった!」
「それは光栄」

お腹をさすりながら、サンキューな!と幸せそうに顔を綻ばせる丸井を見ているとわたしも自然と頬が緩む。来てよかったなぁ。ってまだ丸井の風邪が治った訳じゃないけど。
そういえば熱はもう大丈夫なの?そう言って直接腕を伸ばして丸井のおでこに掛かった前髪を払い除けて自分のおでこをくっつけてみる。と、びっくりしたのか恥ずかしいのか丸井の顔はみるみるうちに血色良いものへと変化してゆく。真っ赤っか。途端に丸井はわたしを押し飛ばして「な、ななな何すんだよ!」なんて台詞を捲し立てるように早口で叫んだ。

「何って、熱を計ってるんじゃない」
「計ってるって……!たっ体温計使えよ!」
「えー、だって面倒なんだもん」
「お前な…」

まじ疲れる。頭を手の平で覆うようにして丸井はあからさまに疲労感を表すポーズを取った。もう、大袈裟だなぁ。てゆうか照れ屋すぎなんだよ丸井は。まぁそんなところもかわいいからいいけどね。きっと丸井は世界でいちばんかわいいってくらいかわいい男の子。そんでもってそんな男の子を彼氏に出来たんだからわたしってばなんて幸せ者なんだろう。きっとわたしだって世界でいちばん幸せな女の子なのかもしれない。

「ねぇねぇ」
「何だよ」
「風邪って人に移すと直るんだって。知ってる?」
「聞いたことあるけど……、ってだからそれが何だよ」
「わたし移されてあげようか」
「、は?」

だから移されてあげるって言ってんの。
わたしがにやりと微笑むと丸井は一瞬だけ怯えるように肩をびくつかせた。あぁもう、だからそうゆうのがたまらなくかわいいんだってば!いっそのこと食べちゃいたいくらい。
そんな浮ついた思考は途切れることなく、胸の奥から湧いて溢れてむくむく膨らんでゆく。好き。好き好き大好き。もう待つのは疲れちゃった。羞恥に震える唇が否定の言葉を紡ぎ出す前に、びっくりして呆けたまんまの丸井を無視してふっくら美味しそうな唇にかじりついてやった。いただきます。


100420

HAPPY BIRTHDAY BUNTA MARUI!

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