基山ヒロト。爛々たる炎のように映える髪に碧空を模したみたいな瞳を持つ彼の名前である。彼は南雲や涼野の二人に並んで、我が校屈指の有名人だ。サッカーもそうだけど、外見的な意味でもわたし達の中で群を抜いて目立っているのだ。見た目だけで言えば、俗に言うイケメンってゆう部類なんだろうけど、基山の最大なる問題は中身にある。中身に。


「ねえ」
「な、何」
「今日は一人でしょ?俺も一緒に帰っていいかなぁ」

にっこり。爽やかに微笑む基山の顔に、下校中とあってちょうど肩から下げていたスクールバッグをめり込むくらいおもいっきり投げつけてやろうかと思ったけど、それじゃあ完全にわたしがただの加害者になってしまうのでやめた。

「ねえ」
「……何」
「この道の桜、すごく綺麗だよね」
「うん、まぁね」
「もうすぐ散っちゃうのがもったいないな」
「…」

基山はわたしを見つける度に何かと理由を付けてはこうやって声を掛けてくる。何でか知らないけど、きっとわたしのことが嫌いなんだと思う。だからわたしが迷惑なのを知ってて敢えて構って来ては面白がっているのだ。ああ!何て厭味ったらしい男なんだろう。


「ねえ」
「…」
「その髪止めかわいいね。君によく似合ってる」
「………どうも」
「思わずキスしたくなっちゃうくらい」
「、は!?」
「冗談だよ。何も後退らなくてもいいのに…酷いなぁ」

ありえない。最悪。ついに我慢出来なくなって鞄の中からペットボトル(お茶が半分入った)を取り出して基山の顔目掛けて投げつけてやったら、パシリという小気味いい音と一緒にばっちり片手で受け止められてしまった。あぁそういえば基山は顔だけじゃなく運動神経も抜群にいいんだった。とことん嫌な奴。「え、これくれるの?ありがとう」で、怒るのかと思いきや返って来た言葉がこれである。こいつは一体どうゆう神経をしているんだろう。もしかしたら何もかも完璧な分、頭のネジが二、三本抜け落ちてしまってるのかもしれない。「あげない!返してよ!」わたしが腕を伸ばせば案外あっさり「君が投げるから悪いんでしょ」とペットボトルを返してくれた。親切なのか意地悪なのかよくわからない。ただ、後者なのは間違いなく確定してるけど。

「ねえねえ」
「……だから何な、」

今まで感じたことのない柔らかい感触を唇に感じて、頭が一瞬で真っ白になるのがわかった。ま、さか。うそ、そんなありえない、こと……。
バクバクとはち切れんばかりに忙しなく動く心臓を止められないままに基山の顔を確認すれば、恥じらいなんか微塵も感じられない、さっきと同じ爽やかな笑顔。さらに基山はとんでもない台詞を一息に言ってのけた。


「やっぱり我慢出来なくなっちゃって」


100412

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