おまじない。女の子なら誰だって生まれてから必ず一度は経験するであろうそれは、とてもじゃないけどどれも現実離れしたものばかり。男の子が馬鹿らしいと貶すのもしょうがない話だしもちろん納得できると思う。けれど、それでも願いが叶うというキャッチフレーズが一個付いてくるだけで、心というものは"馬鹿らしい"から"やってみたい"へとたちまち変貌を遂げてしまうのだから不思議である。まぁかくいうわたしだってその一人なんだから馬鹿には出来ない。
ただし、そんなおまじないにも共通するひとつの面倒な決まりごとがある。誰にも知られてはいけない。これは絶対に決まっているルールであって絶対に破ってはならない。このルールを破棄した時点で、おまじないはまるまる無効になってしまうのだ。
そんなことくらいわたしだって知っている。熟知している。なのに、なのに、どうして。こんな事態に。


「…」
「…」


すき、きらい、すき、きらい、すき、きらい
一定のリズムで繰り返される青めいた単語が、手の中にあるコスモスの花びらが残り2枚になったところでぴたりと止む。み、見られ…た……!しかしハッとしたところで時すでに遅し。目の前でぽかんと大口を開けて虚ろを漂わせた目でわたしを見つめる敦也は残念ながら幻影などではなく紛れもない実体である。あぁ、わたし、終わった。なんで、なんでよりによって今こんなとこで会うの。


「あ、の、」
「…」
「いや、ち…ちが、違うんだよこれは!決して花占いとかそんなんじゃなくて…!」
「…」
「ちょっと暇だったから暇潰し的なアレで、うん、まぁ、要するに、暇……潰し、なんだけど」

だめじゃん。全然うまく言い訳出来てないじゃん、てかわたし日本語すらしゃべれてないじゃん。
動揺を隠しきれずにしどろもどろするわたしは敦也の目に、今どれくらい滑稽に映っているのだろうか。少なくとも"馬鹿らしい"と思われてるのに違いはないんだろうけど。
わたしの足元にはたくさんの花びらとすっかり淋しくなった彩りのない茎が無数に散らばっている。勝手なわたしの事情で犠牲になった花たちに今更申し訳ないという後悔がこぼれてくる。あーあ、何やってんだろわたし。こんなジンクス紛いなことやったって敦也の気持ちがわかる訳でも変わるわけでもどっちでもないのに。おまけに本人に見られるし。馬鹿みたい。


「今時こんな馬鹿なことやってんのお前くらいだろ」
「…ほっといてよ」
「大体お前なんかに惚れられるなんて相手も不憫だよな」
「敦也さいあく」
「お前の顔もな」
「ますますほっといて!」
「いやだ」
「……えええ(いやだって何)」
「で、誰なんだよ」
「えっ…何が」
「相手、誰を占ってたのか聞いてんだろ」
「だ、誰って……、」

敦也はふて腐れた顔をしながら少し尖った唇で尋ねた。何でそこで拗ねるの。謎。しかし安易に疑問をぶつけてしまっては余計に敦也の機嫌を損ねてしまいかねないのでやめておく。気まずくてやり場のない視線を少し下にそよがせると、敦也の左脇に抱えられたサッカーボールが何だかひどく窮屈そうに目に映った。わたし達のずうっと後ろの方から空を伝ってホイッスルが遠音で響いてくる。試合終了の音だろうか。今頃、いつまで経ってもボールを取りに行ったまま帰って来なくなった敦也をみんな心配してるんだろうな。でもいちばん心配してるのは士郎かな。…ううん、士郎は勘がいいからどうせまたどこかで道草食ってるんだって想像付いてるかもしれない。ミイラ取りがミイラになるっていう諺があるけれど、まさしく敦也のことみたい。だって行方不明になったボールを取りに行って自分も行方不明になっちゃったんだから。さっすが敦也だ。おもしろい。……そんなところも好きなんだけどね。なんて敦也には死んだって言えそうにないけど。だって相手があの敦也だし。
「で、誰だよ」わたしがさっきから黙りこくっているのを不審に思ったのかイラついたのか、せっかちに敦也は再び催促の言葉を投げかけてきた。うるさいなぁ、もう。人がせっかく考えにふけってるってゆうのに。


「、敦也だよ」
「はあ?………お前な、そんな嘘言ったっておもしろくも何ともねえぞ」
「嘘じゃないもん。………だから、本当に敦也なんだってば」
「…」
「…」
「……………まじ、かよ」

かなり慌てふためいたようで敦也はさっきまであんなに大事そうにきゅうきゅうに抱き抱えていたボールを呆気なく地面に落っことして、尚且つさっきまであんなに機嫌悪げに尖らせていた唇をゆるゆると一文字に上唇を噛み締めている。えええええ。どうゆうこと。何が起こったの。


「兄貴じゃ、なくて………本当の本当に、まじで俺か?」

あ、かわいい。そうわたしが思うのも無理はない。淡いほっぺがさっきまで夢中にちぎってたコスモスの花びらみたいだ。何回やっても"キライ"にしかならなかった花占い。でも結果的に成功したんだから案外これだって効能あったのかも。なんて。


ちちんぷいぷい、きみのいちばんになれますように

100626
企画/アツヤ祭に提出

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