◎甘美/出逢い(甲斐凪11才×鈴葉11才)
「…………くだらないな」
どこのお偉いさんのパーティーだか知らないが、壇上でのバイオリン演奏を終えた俺は世辞の集まるこの空間を少しでも抜けだそうと人の少ないテラスへとやってきた。多少は気持ちが晴れる。見上げた夜空は綺麗だった。
「あ、、さっき演奏してた人だ」
「!、」
よいしょ、と断りもなく座ってきた少年……に急にそんなことを言われて心臓が跳ねる。同時にあんな会場でも聞いている人はいるもんだなと他人事に思った。まあ、小柄な少年だけれど。
「上手だったね」
「…………別に」
「たべる?」
「…………」
差し出されたのは甘ったるそうなカップケーキ。立食会でもある会場はビュッフェ形式で色々な料理が並んでいるが、横目で伺った彼のトレイにはデザートのみがこぼれ落ちそうなほどに乗せられていた。
「ごめん、嫌いだった?」
「……いや……どっちでもないけど……それ、全部食べんの?」
「えっ、うん、いつもはちょっとしか食べさせてもらえないから、パーティーのときはこうやってたくさん食べるんだ。あっ、内緒にしてね?」
「ふーん、幸せな奴」
大人たちは地位や取引や名誉のために取り繕っているのに、それを知らない俺らは可哀想なだけなのに。
「甘いものは全部好きだけど、生クリームと、カスタードがいちばん好きかなあ。おれ、思うんだけどご飯とか野菜とか無しにして、ケーキだけにすればいいと思うんだ。皆甘いもの食べてるときは笑顔だから」
「!、……そんなこと、できねぇよ」
「あはは……そうだよね……」
思っているより彼は大人をよく見ているらしい。だが、どんなに綺麗な事を思っても、いつかは自分達もああなっていくことには変わりはないのだ。
「鈴葉ーー!どこ行った……!出てこい……!」
「!、わ、お兄ちゃんだ、…行かなきゃ……!これ、あげるね……!」
「あっ、おい、こんなに……!」
ハッと伸ばした手は届くことはなかった。
「鈴葉……」
その名前だけを残して──
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