「どこだろう…」

昼食後、言われた通りに温室へとやって来た。見た目からして覚悟はしていたがかなりの広さだ。俺はあまり植物には関心が無いせいで初めて中に入ったけれど、基本園芸部の生徒たちが管理しているらしい。セキュリティもしっかりしていて、学生証がないと扉は開かない仕様になっている。

「電話してみるか」

適当に見回っても難しそうなので、副会長さんに共有してもらって以降1度も触れなかった会長の連絡先をタップする。

「…………」

すぐに規則的な発信音が数秒間続いたあと、プツリとその音は途切れた。

「あ、会長…樋坂です。温室についたんですけど何処にいますか?」

『上』

「上?」

『さっさと登ってこい。じゃあな』

「あ─…かいちょ…!」

簡素的な言葉のみで切られた通話。確かに上へと続く階段はあるが、登っただけで辿り着ける自信はない。

「食堂みたいに専用席みたいなのがあればいいけど…」

まぁ登っても分からなかったらまた連絡すればいいだけだし、とりあえずは上を目指すか。

そう暢気に階段を上がっていくと、専用席とかいうレベルでは無さそうなくらい豪勢なエリアが併設されていて、その中にあるこれまた派手なベッドに腰掛けている会長がいた。周りは巨大な植物に囲まれていて、視界へのインパクトは南国の王子様と言われても納得するかもしれない。

(雰囲気は帝王って感じだけど…)


「お待たせしました…」

「……」

「あの、お話って…?」

「ねぇよそんなもん。ただの口実だ」

「え」

親衛隊長さんにわざわざ頼んでおいて!?

「突っ立ってないで寝ろ」

「………もしかして、枕ですか」

「分かってんじゃねぇか」

「いや…テスト期間ですし、流石に」

そういう問題でもないけれど。

「フン、そうか。なら帰れ」

「……は、」

「何だ」

「い、いえ……帰ります。失礼しました」

前回の事もあって拒否したところでと内心思っていたが、今回はあっさりだった。テスト期間は考慮してくれるんだな。だからと言って俺の枕に味を占めないでほしいけれど。

「!………」

階段を下りようと一歩踏み出したときだ。

ピカッと外が一瞬光ってゴロゴロと音が鳴り響いた。

嘘だろ、雷……?

まだ少し距離は遠い。曇ってはいるが雨は降っていないし、外に出ても問題は、無い……だろうか……?温室から校舎までなら5分くらいで着くし…?

ゴロゴロとまた音が鳴って、さっきよりも距離が近づいたのか音も少し大きくなる。

駄目かも。大人しくしとこう。


「…?、どうした」

「あ…えーっと……もうちょっとここにいようかなって…思いまして……」

出来ることなら今すぐにでもベッドの中に入って落ち着くまで過ごしたいけれど、いきなり会長の前でそんな奇妙な行動はできない…のでとりあえず彼が腰掛けているのとは逆側から登って、脚だけを掛け布団の中に入れた。それから本来なら枕の役割を担うクッションを胸に抱く。

よし、なかなかいい感じだ。

「随分な心変わりだな?」

「!、そ、そうですよね…折角来たしと思って…─うわっ!」

突然腕を引っ張られたと思ったら、抱き寄せられて掛け布団を頭まで被せられた。予想外の行動に身体は固まるが、俺にとってはめちゃくちゃ有難いことだ。

「会長……?」

「予報では1時間程度だとよ」

「…!、そう、なんですか」

「俺は寝る。大人しくしてろ」

「は、はい…おやすみなさい」


言葉に甘えて大人しく、身体の力を抜いて彼の胸に擦り寄った。




mae ato



141/143 / shiori








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