「…計35点押収。キモ」
特に会話が弾むことなく1時間が過ぎた頃、黙々と回収していた柊くんが声を発した。大人しく猫のブログを読んでいた俺はその声に連られて顔を上げる。
丁度回収されたカメラの袋口が閉じられているところだ。どうやら終わったらしい。
「……もう、無いんですか?」
「…さあ?」
「さあ……」
「本人が吐いたのはこれだけ」
「………」
「念押すなら、あんたで確かめる方法はあるけど、」
「!、」
俺が言葉を返す前に、どんっとソファに押し倒された。彼の圧も相まって、自然と身体は強張り紙袋の存在も頭にちらついて色んな焦りが鼓動を早めていく。
「どうすんですか、」
続けてそんなことを訊いてきたと思ったら、
「…どうするって─…っん!」
きゅ、と鼻を摘ままれた。
咄嗟に口を開けるももう片方の手で口も塞がれて。
「っ、……ン、ッ……んん!……」
慌てて彼の腕を掴むがびくともしない。
「そうそう、良い感じ」
「ふ、ン─!…っ……〜〜!」
決して死んでしまう程ではないが、取り入れることができる酸素量は僅かばかり。息は苦しいし、力は入らなくなっていく。
それに反して彼の声色は艶やかになっていた。
「もっと吸えます?」
「ッ…?、…ン、ふ……んんっ」
「ビミョー、それじゃ気持ち良くないけど…」
「は、ッんん…!…ン、!」
「ん、そう。もう終わる」
「…う…っ!、けほッ…はあ、っはあ、はあっ」
始まりがいきなりなら終わりもまたしかり。
パッと両手も身体も離れて、一気に酸素が肺を満たしていく。一体なんだったんだ。これがどう確かめる方法だったのか検討もつかない。危うく死んでた。
「どーも、ありがとうございました」
そんな柊くんはというと、何事もなかったかのように元の怠そうな声色に戻り身支度をさっと整えて俺が必死に呼吸を整えている横で遠慮無く部屋を出ていってしまった。
まじでなんだったんだよ。
「まあ…委員長じゃなくてよかったけど、、」
それこそ死んでた。
*
夜。
テスト勉強にキリをつけて食堂へ向かうと居たのは七恵先輩だけだった。
「やっほー樋坂ちゃん」
「お疲れ様です。先輩だけですか?」
「ん〜たぶん?日曜は結構二人はいないかもねぇ……え?」
「え?」
俺が着席したと同時、先輩が怪訝な顔をした。そしてそのまま、俺を見つめてくる。
「どうかしましたか?」
「……ううん〜。なに食べるの?」
「魚の定食…にしようかなって思ってますけど」
「じゃあおれも」
ピ、と先輩も俺と同じ魚定食を注文して携帯片手にソファへと凭れる。
「ね、樋坂ちゃんって香水とかつけないよね?」
「そう、ですね。つけません」
「だよねえ…。じゃあ、お試しってことで」
そう言ってポケットから何かを取り出したかと思ったら、シュッ、と霧が身体にかかった。その数秒後、仄かに甘い香りが鼻を掠めていく。
「香水…?ですか?」
「うん。どお?」
「七恵先輩の匂いがする……」
「……まーそうだね。おれのだし」
「もしかして俺何か臭ってました?」
「ううん〜樋坂ちゃんは大丈夫だよ」
「それなら…、いいんですけど」
昼間に少しだけシロに会いに行ったけれど、そんな獣臭くはなかったはず。自分では気づいてないだけとか…?気をつけよう。
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shiori
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