*藤崎視点
「ど、どうしよう…佳汰くん…!」
「めっちゃいいじゃん!!俺も料理できたらなあ〜!」
「僕が…いいのかな…先輩もいるのに」
「隊長が言ってんだから気にすんなって、昼は皆で食べていいし!」
「う、うん…」
よっしゃ〜!と喜んでいる佳汰くんを横目に改めて隊長から送られてきたメッセージを読み直す。
そこには暫く僕が鈴葉様の朝食を作ることと、お昼は鈴葉様と隊員の皆でとってもいいことが書かれていて、いつもの3分の規定もない。ただ失礼のないようにと最低限の注意がされているだけ。それも明日から。心の準備はできそうにない。
(緊張して寝れないかも…っ)
◇
翌日。
(全ッ然寝れなかった……!)
鈴葉様のことや朝食のメニューのことを考えていたらいつのまにか外が明るくて、さっき設定した筈の携帯のアラームが鳴っていた。
遅れる訳にはいかないのでそのまま無心で準備をして、エプロンと三角巾を持ち急ぎ足で鈴葉様の部屋の前に辿り着いたのだが、もう緊張でしにそうだ。
前に一度だけ部屋へ弁当を届けたことはあるけれど入るのは今回が初めて。しかも僕ひとり。それは鈴葉様の部屋で二人きりになることを告げていて─。
う、また心拍数があがった気がする。
「…大丈夫……だいじょうぶ…」
ふうーっと落ち着くために何度か深呼吸をして姿勢を正し、ピンポーンとチャイムを押した。
「───はーい、、…あ、藤崎くん……?おはよう」
「お、おはようございます…っ!」
「……もしかして、朝ご飯?」
「は、はい。すみませんっ、あの、起こしてしまいましたか…?」
「え?あ、全然大丈夫。俺がちょっと寝坊して。入っていいよ」
「!、は、はい、失礼します…!」
ついに……!!
一歩二歩と足を踏み入れたら廊下とは比べ物にならないくらい空気が変わって、呼吸を忘れた。
ひろい、きれい、鈴葉様の匂いがする、しにそう。
(しかも寝間着姿………!)
「えっと、ごめん。あんまり詳しく聞いてないんだけど、何か俺手伝ったほうがいい…?」
「!、い、いえ…!あの、隊長からは食材は鈴葉様の部屋にあるとお伺いしてるんです、けど…」
「あ、うん。いつも朝ご飯はパンだから、ストックがそこにあるのと飲み物とかも冷蔵庫にあるし、卵とかも─ってフルーツとか野菜は俊が勝手にもってきてるんだけど…使っていいと思う……ってこれ栽培部のやつであってるよな…?学園のシールついてるし、、」
「あ、はい…!フルーツは学園の果樹園からも採れて、野菜は栽培部の収穫ボックスにありますから自由にもっていけるようになってます…!」
「果樹園なんかあったっけ!?」
「はい、もう少し山奥にあります…!早い者勝ちですけど、毎月学園に収穫物が届いてます」
「すご……俺はいつも地下のスーパーで買ったりしてたから果樹園は知らなかった。今ある材料はそんな感じかな?調味料も見てのとおり揃えてくれてるから、宜しくお願いします」
「、いえ!そんな…!こちらこそ、鈴葉様のお部屋のキッチンに立たせてもらえて光栄です…っ!」
「それは大袈裟すぎるって…!ちょっと着替えてくるから離れるけど、何かあったら呼んでね」
「はい、ありがとうございます…!」
鈴葉様の姿が見えなくなってから数秒、無意識に薄く呼吸して強張っていた体を解すように息を吐く。
勢いに任せて上手く会話は繋げれたと思うが、頭の中はもう大渋滞。初めて見れた鈴葉様の寝間着姿、冷蔵庫の中にあった飲み物の種類、洗剤の銘柄、朝はパン…とにかく情報過多だ。
(無難に、パンを焼いて、スクランブルエッグとかにしよう……)
今の僕では簡単なものしかできない気がする。緊張であり得ないミスをしてしまいそうだ。
「よし…っ」
がんばれ僕!
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shiori
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