*戌川視点


「ごちそうさまでした、美味しかった」

「ああ、」

「ちょっと洗面所借りていい?歯になんか詰まったかも…」

「フロスなら新しいのが棚に入ってるから使え」

「え、ありがとう。見てくる」


その間に食器でも洗うかと俺も席を立ったのと同時、机にあった鈴葉の携帯が短く震えた。

本人は気にせず洗面所へ向かったが、ちらっと見えてしまった名前に此方は二度見することになる。


「!!!、」


(柴麗秋!?!?!?)

食事中も何度かやりとりをしているのは分かっていたがまさか相手があの柴麗だとは思いもよらなかった。

惜しくも内容は新着メッセージの羅列で話題までは見えない。


あの日に交換しているのは知っていたが、その後は流石に知らない。ここ最近は俺への連絡も減ってきているし、今日話すのも久しぶりだ。おかげで鈴葉の正確な情報があまり掴めていない。会長との食堂デザート事件も現場を見逃した。

まあ連絡が減るのは単に新しい生活サイクルに慣れてきただけだろうが、問題はそこじゃない。

ちょっとばかし鈴葉の雰囲気が変わってきていることだ。

(……魔性度が上がった気がする)

これが役員オーラというやつか?


「雅也ー、無事とれた!」

「!、よかったな。携帯鳴ってたぞ」

「あ、ほんとだ」

「甲斐凪か?」

「ううん、違う」

「、そうか」


さりげなくカマをかけてみたが成功ならず。名前を言い出すことはなかった。メッセージを確認している表情は楽しそうだ。クソ、めちゃくちゃ気になる。

俺の知らない所でいつのまに仲良くなってるんだお前ら…!

机を叩きそうになるのを堪えながら、心の中で内容を妄想するしか術はなかった─



mae ato



123/143 / shiori








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