*丹羽寺視点


「景(けい)、ごめん、少し遅れたよ」

「いや、全然。3分とかだよ」

「こら、甘やかしたら駄目だろ」

「ははっ今度は怒られた」

「言っておくけど、今日はさん付けはいらないからね」

「…ああ、」

小橋景(こばしけい)。僕の親衛隊員だ。隊員といってもただの仲の良い友達で本当のところは幼馴染みだ。これまでずっと良い距離感を保ってきたが、まさかデート権を獲得するなんて。これまでずっと他の子をアシストしていたような彼がだ。


「改めて聞くけど、本当に最後だからはりきっただけ?」

「…、いいや、違う。勿論はりきったのは本当」

「その理由、聞いたら教えてもらえるのかな」


ふふ、と微笑みながら互いに水族館へと出発する送迎車に乗り込む。


「…教えないって言ったらどうするんだ」

「それは、諦めるしかないね。無理に聞き出すのも良くない」

「嘘つくなよ、超気になるって顔してる」

「ふ、してないさ」

「………晃がそうやって笑うときは誤魔化してる証拠。何年関わってきたと思ってるんだ」

「…気遣い、って言ってもらいたいな」

「…………好きだった」

「!、」

「まあ、分かってたと思うんだけどさ、そういう雰囲気を上手く避けられてたから俺も頑張るつもりもなかった。でも、最後だから思い出作りくらいはさせてほしい」

「………」

「理由は以上。他は何かある?」

「……卒業したらどうするつもり?」

「、……アメリカに行く」

「…そう、アメリカのどこ?」

「ごめん……そこまでは言えない」

「………」

「そんな怖い顔するなよ」

「してない」

「してるよ」

「……、…」


好きだった。似たような台詞はこれまで色んな人にたくさん言われてきた。

景の言ったとおり彼が僕に好意があることも気づいていたし、事あるタイミングで避けていたのも事実。嫌いだったわけではない。

(……向き合わなかった)

「水族館、選んだ理由は?」

「……子供の頃、よく図鑑読んでたのもあるけど、俺の家で飼ってる魚も気にしてたし、今でも学園の水槽とかたまに見てるから好きなのかと思って。違ったか?」

「……合ってる」

「よかった」

彼に限らず、隊員や自分の事を好いている人間は本当によく見ているなと思う。

「あのさ、書記の樋坂さんってどっち?」

「…え、急に何を、、恋愛対象がってこと?」

突拍子もない話題を振られて思わず心臓が跳ねた。しかも樋坂君だ。蓮のときもそうだがまさか自身のデートでも名前を聞くことになるとは…。

「?、いや、ネコかタチかって話で」

「あ、ああ……、ネコ、じゃないかな」

「そうなんだ。本人と話した感じどっちか分からなかったからさ、俺の周りで浮いた話も聞かないから何となく気になった。親衛隊とかも見ないし。3年にいる?」

「少人数体制みたいだから、そんなにいないんだと思うよ。一人だけいるね」

「……隊長とか?」

「違うけど…、隊長は2年生」

「へえ、」

「どうしたの?普段そんなこと気にしないだろ」

「んー、晃にしては珍しく気にかけてそうだったから、聞いただけさ」

「…それは、新しく着任したうえに、外部生だからね。勿論別の問題もあるんだけど、、」

「ま、今はそれでいいと思う」

「……はぁ、何が言いたいの?」

「何だろうなぁ、」


頑張れ、なんて言われてしまった。





mae ato



121/143 / shiori








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