「了ちゃん」
「沢田ではないか」
暗がりの中。
電灯の明かりに照らされて、了平の姿が映った。
了平がイレーネの姿を捉え、近づいてくる。
「こんな夜中に何をしているんだ」
「ランボちゃんが迷子になっちゃって、探してたら遅くなっちゃった。了ちゃんは――ランニング中?」
ジャージ姿を見てそう問えば、了平は頷く。そのまま、彼はイレーネの横に並んで歩き始める。
驚いた表情でイレーネが了平を見ると、「危ないだろう」と眉をひそめられた。どうやら送ってくれるらしい。
腕の中で眠りこけるランボを抱きなおして、イレーネは笑った。
昼間の暑さから解放されているとはいえ、この時期はまだまだ暑い。うだるような暑さはないが、じんわりと感じられる熱に気だるさを覚え、イレーネは息を落とした。
「そういえば、了ちゃん」
「うん?」
ランボが起きないよう、声をひそめて了平に視線を投げる。了平がイレーネへと顔を向けるのを確認してから、イレーネは笑顔を浮かべ続けた。
「お誕生日おめでとう」
一瞬目を見開いたものの、暫く間を置いてから、了平は頬を緩ませて視線を前方へと戻した。
「ありがとう。知っていたのか」
「今日の朝、剣ちゃんと会った時に聞いたの」
「そうか」
「でも、残念なことにプレゼントはないのよねぇ」
「別に構わん」
「うーん、でもなんかなぁ」
イレーネが唇と尖らせると、それを横目で見た了平が軽く笑う。
「まあ、来年に期待しててちょうだい」
「おう」
夜の闇に、スズムシの鳴く声と二人の足音が響く。
時折流れる風が涼しくて、夜の散歩も悪くないなと、どちらともなく思った。
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