「……やれやれ、君は本当にボスが好きだね。どうしてそんなにボスが好きなんだい」
「きゃっ! やだマーモンったらそれ聞いちゃう?それ聞いちゃうぅ?」
「う゛ぉおおい! カナタ、話すり替えられてんぞぉ!良いのかぁ!」
「さっきからうっさいなあ! カス鮫は私の邪魔しないでよ!」
「……おかしな事言ってねえのに、さっきから俺の扱い酷くねぇかぁ」
「ししっ、いつもの事じゃね?」
「……」
何やら複雑な表情でスクアーロはカナタを見たが、カナタはそんな視線などには目もくれず、瞳を輝かせながら拳を握った。
「ふふっ、皆私のボスへのピュアな気持ちを知ったら、驚いちゃうんだからねっ!心して聞きなさい!」
カナタが言えば、レヴィが対抗意識を燃やしたのか前に出て彼女を睨みつける。
「貴様のボスへの思いが真実のものか聞かせて貰おうか。俺が見極めてくれる!」
「ふふ、受けて立つわ、レヴィ。まず語るなら避けて通れないのが、ボスの強い意思を感じる深紅の瞳よね」
「ふむ」
深々とレヴィが頷くのを見て、カナタは続ける。
「あの瞳に見つめられただけで、もう鼻血と涎が止まんないってか、目と目があった瞬間妊娠しちゃうってか、もう子宮にずんずん来て下半身の疼きがとま「う゛ぉおおい!いきなりピュアからかけ離れた回答すんじゃねぇええ!違う意味で驚いたぞぉ!お前自分が何言ってるのか分かってんのかぁああ!!」
危ない方向へと話が進みそうになった為、すかさずスクアーロが遮るようにツッコミを入れる。
カナタはそれに対し、不満そうに頬を膨らました。
「もう、何よう!それだけじゃないんだからねっ!ここからが本番なんだから!」
「……期待してないけど、まあ聞いてあげるよ」
「そう言ってられるのも今のうちよ、マーモン!」
ビシッと人差し指をマーモンに突き付け、カナタは不敵に笑う。スクアーロは嫌な予感がしたが、とりあえず聞いてから止めようと黙ってカナタの動向を見守った。
「で、ボスの好きなとこの続きだけど、艶っぽい唇、顔を埋めたくなる厚い胸板、撫で回したくなる引き締まった腹筋、その素敵なボディに散らされた舐め回したくなるセクシーな傷跡とかもう最高……! 抱き着きたくなる逞しい腕はもちろん、長いおみ足もたまんないよね! 思わず絡み付きたくなるっていうか、私はもう踏まれたい! 出来る事ならボスに踏んで欲しいね! 最上級に見下した目付きで罵倒しながら踏んで欲しい! でもね、それと同時にボスを組み敷きたい気持ちもあるの! あの俺様なボスを下にし嫌がる彼に恥辱の限りをつく「う゛ぉおおい! も、もういい、もうやめろぉ!! 頼むからやめてくれぇ!! つーか喋れば喋る程ピュアからかけ離れてる上にテメェ体目当てじゃねえかあぁあ!!」
カナタがマシンガンの如く「ボスの愛すべきところ」を上げるのに耐えきれなくなったスクアーロは髪を振り乱しながら叫んだ。
はあはあと肩で息をするスクアーロにカナタは至極冷静な声を返す。
「性欲ほど分かりやすくて純粋な思いはないと思うの」
「真顔で何言ってんだテメェはぁぁあ!!」
「まあカナタにまともな回答を求める方が間抜けだよね」
「ししっ、どーかん。つか予想もつけてないカス鮫がバカなだけじゃん?」
「ぬうっ!?今の回答のどこがおかしいのだ?」
「え、レヴィ、君それ本気で言ってるのかい?」
「テメェら、何騒いでんだ」
マーモンがレヴィの発言に引いた所で、談話室に低く、しかし通る声が響き渡った。
全員の視線が声の主に注がれる。
「あらぁ! ボスじゃない! どうしたの? 談話室に来るなんて珍しいわねぇ」
「テレビが壊れた」
「う゛ぉおい、壊したの間違いじゃねえのかぁ? ――ぐがっ!! 痛ぇじゃねえか! 何しやがんだぁ!!」
スクアーロが軽く茶々を入れた瞬間、ザンザスはスクアーロの顔を目掛けて酒瓶を投げた。正面からそれを食らったスクアーロはよろけながらもザンザスを睨みつける。
その様子など気にも留める事無く、ザンザスはレヴィを見た。
「おいカス鮫のせいで酒がなくなった持ってこい」
「今のは俺のせいかぁ!?」
「すぐに酒をお持ちします! 待っていてください、ボス!」
「うだうだ言ってねぇでさっさと持ってこい、カス」
「はい!!」
意気揚々と返事をしてレヴィが談話室から出ていく。ザンザスはと言えば何食わぬ顔でソファに身を沈め無表情でテレビのリモコンをいじりだした。いい気なもんである。
スクアーロが服の袖で濡れた顔を拭いていると、ザンザスの視線がスクアーロの後ろの方へ移った。スクアーロもつられてそちらに顔を向ける。
そこには先程まで嬉々として変態発言を繰り返していたカナタがいた。
頬を桜色に染め、眉は下がり、瞳を潤ませ困ったような、そんな表情でザンザスを見つめている。さっきまでの恍惚とした表情を浮かべていたカナタは何処に行ったのだろうか。スクアーロの眉間に皺が寄った。
「何じろじろ見てんだ」
ザンザスから言葉を投げ掛けられれば、カナタは肩を震わせ俯き、瞳をさらに潤ませる。
「ごめんなさい。突然ボスが来たから、嬉しくて……」
そこまで言って、カナタは唇をかみ恥ずかしそうに身をよじった。
ザンザスは満更でも無い感じでふん、と鼻をならし、視線をテレビに戻した。
なんとなく部屋の空気が甘ったるいものへと変わっていく。
――ああもう、ほんとに、この女は
ボス限定乙女
本当は変態ストーカー女なのに騙されてるぞ、ボスさんよぉお!
(2011.05.02)