「あの」
    「ああ?」
    「やっぱり10年後の私も鼻血ばっかり出してるんでしょうか」

    問えば、ザンザスは視線を宙に飛ばし考える風な表情を浮かべた。

    「頻度は減った。せいぜい1ヶ月に1度くらいだ」
    「わお」

    驚いた。
    1ヶ月に1度鼻血を出すというのは、世間一般では多い事なのかもしれない。だが、今現在カナタは2日に1度は鼻血を出しているので、1ヶ月に1度まで減っているのだとしたら、奇跡に近い。

    「私も落ち着くんですね……いやあ、びっくりです」
    「どこがだ。なんもしてねぇのに鼻血何か普通出さねぇだろ」
    「う、まあ、そうなんですけど。これには事情が」
    「……ほう」

    にやりと笑うと、ザンザスがぶにぶにとカナタの頬をつまんだ。そのままカナタに顔を近づけてきて、囁くように言葉を投げかけてくる。

    「だったらその事情ってのを説明してみやがれ」
    「は」
    「どうした。説明出来ねぇのか」

    まずい。まずいまずいまずい。これはマジでヤバイ。
    鼻先が触れ合いそうなくらいの距離でザンザスの瞳を覗いていたカナタは、最早我慢の限界だった。体が熱い。体中の血液がぐつぐつと煮えたぎっているような、そんな錯覚さえする。こんな距離で愛しの人を見るとか、拷問に近い。時折ザンザスの吐息が唇を撫でてきて、息を吸うのさえくるおしい。

    「う゛お゛ぉい!何してやがんだ、クソボス!」

    最早死ぬ寸前という所で、助け船が出された。どうやらスクアーロのようだ。普段よりも長いその髪と、なんとなく大人の色気を漂わす姿からして、彼も10年後と入れ替わったままなのだろう。
    スクアーロの姿を横目で確認するとザンザスは鬱陶しげに舌打ちをし、カナタから顔を離す。すかさずカナタは起き上がり、膝枕から逃げようと試みるも、再度デコピンをされはじき返されてしまった。だから、これ、痛い。

    「おい、話の途中だ。逃げんな」
    「でででででも、もう、あの、大丈夫なので解放してもらえませんでしょうかっ」

    鼻を押さえたまま目に涙を浮かべ訴えていると、長椅子に投げ飛ばしている脚先の方からスクアーロの溜息が聞こえた。

    「あんまこいつをからかうんじゃねえ!っつーか自分の年を考えやがれぇ、ロリコンかテメェはぁ!」
    「ああ?カスの癖に偉そうな口叩くんじゃねえ、かっ消すぞ、テメェ」
    「あ゛ぁ!?」
    「待って、二人とも待って」

    途端に言い争いを始める二人を遮り、カナタが手を上げる。二人の視線が彼女へと移ると、彼女は顔を真っ赤にさせ

    「もう限界です」

    勢いよく吐血した。

    「う゛お゛おおおおおおおぉい!?カナタ!?どうしたぁああ!!」
    「鼻抑え過ぎて、鼻血が逆流したか」
    「冷静に診てんじゃねぇえ!!ルッスーリア!ルッスーリアは何処だぁああ!!」

    そんな訳で。
    カナタは本日2度目の気絶をした。

    ***

    「はっ!!」
    「おはよう」

    目覚めると、そこは布団の中だった。
    カナタが起き上がり、辺りを見回していると赤ちゃんサイズの小さな布団を畳んでいるマーモンの姿が目に入る。

    「君、吐血して倒れて、そのままずっと寝てたんだ。もう朝だよ」
    「えええええ!?」

    そんな馬鹿な!折角の旅行が!台無しじゃないか!
    突然突き付けられた現実に絶望的な気持ちになった彼女はそのまま頭を抱え込んで突っ伏した。しかし、二度も気絶してしまうとは。血を失うって本当に怖い事だ。

    「カナタっ、起きたのね!もう具合は大丈夫なの?」

    陰鬱な気持ちになっていた所で、ふすまが頭一個分くらいの大きさに開いた。見ればルッスーリアが顔を覗かせている。それは10年後の姿ではなく、現代のルッスーリアだったので、カナタは安心して表情を緩めた。やはり、同一人物だといわれても、10年も時が経ってしまった彼らは普段よりも距離を感じてしまうからこの方が良い。彼女も戻っているという事は、他の皆も元に戻っているのかもしれない。

    「へ、平気……っていうか、ずっと寝てたとか最悪だよ……」
    「元気が出たのなら良かったわあ!大丈夫よ、昨日の分は今日とり返しましょ。今日はねぇ、東京タワーを見に行くみたいだから、楽しみましょうねん」

    必死に励ましてくれるルッスーリアを見て、わずかに元気を取り戻したカナタは勢いよく立ちあがった。

    「ありがとう、ルッスーリア。そうよね、今日取り返せば良いよね!」

    そのまま布団をたたむ作業に取り掛かる。
    布団をたたみながら、昨日のザンザスとのやりとりが頭をかすめ、思わず顔に熱が帯びる。なんだったんだろうか、あれは。自分とザンザスとは確かに仲は悪くはないと思うが、昨日のあれはちょっと距離が親しすぎる気がする。
    膝枕に、頭を撫でられるわ鼻をつままれるわ、あと少しで唇が触れ合うくらいの距離まで顔を近づけられるわで。あのままスクアーロが来ないで、鼻血も押し留めていたら自分はどうなっていたのだろうか。
    そこまで考えたら、鼻からつーっと赤い物が伝った。

    「ちょっと、カナタ。また倒れるつもりかい、いい加減にしてよ」



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    「何かスクが目を合わせてくれないんだけど」
    「お前が先輩に色々したからだろ」
    「はあ?私が何したって訳?」
    「10年後になりゃ分かるんじゃね?」
    「ちょっと待って、私てっきり勘違いしてたんだけど、未来の私はボスと出来あがってるんじゃないの!?どうしてスクが私を見て異常な反応してる訳!?意味が分からないんだけど!どういう事よ!?」
    「は?知るかよ。っていうか、ボスと何かあったわけ?」
    「やめときなよ、ベル。その話をするとカナタ鼻血出すから」

    (2011.05.26)

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