ん?
    ベルの後ろで動く何かが見えて、スクアーロは目を細める。何だろうか。気になったのでそのまま近づいてみる。
    スクアーロは視線の先の物を見て、己の目を疑った。ベルの少し後ろ辺りの草陰から、タオルで口を塞がれ、ロープで手足を縛られているレヴィの姿を発見したのだ。

    「う゛お゛ぉい!こりゃどういう事だぁあ!!」
    「げっ!ちょっと、ベル!隠して!」
    「いかがされました、スクアーロ殿」

    スクアーロが大声を上げると、即座にバジルが駆け寄ってくる。後ろではばつの悪そうな顔でカナタが様子を窺っていた。

    「レヴィ殿!?ご無事ですか!!」

    レヴィを見つけるなりバジルは表情を強張らせ、彼の戒めを解いた。レヴィの頭からは血が流れている。どうやら頭部を殴打されたらしい。

    「レヴィ殿!レヴィ殿!……くっ、一体なぜ!?まさか、邸内に賊が忍び込んでいるのでしょうか!?」
    「……ちが…………カナタと……ベルに」
    「お二人に助けられたのですね。大丈夫、直ぐに医務室に運びます」
    「ち、ちが……」
    「血はもう止まっていますよ。大丈夫、拙者がついております。どうかご安心ください」

    何かを必死に訴えようとしているレヴィに対して、バジルは優しく安心させるような声で囁いていた。
    それを脇目にして、スクアーロはベルの腕を引っつかみ、穴の前で佇んでいるカナタへと小走りに近寄っていく。
    拘束されているレヴィ。今掘られている大きな穴。レヴィの呟き。これらから連想される結論はただ一つ。

    「う゛お゛ぉい!!テメェら!埋める気だったんだな!?何してんだぁ!」

    バジルから少し離れた場所でスクアーロは二人をしかりつけた。バジルに真相を知られては後々面倒な事になりそうなので、出来る限り声をひそめる。
    しかし悪いとは露とも思っていないのだろう。しかりつけたところで、加害者の二人は不満げな視線を返してきた。

    「だって喧嘩して、ついかっとなったんだもん」
    「しばらく埋めときゃ静かになるだろーって思ったわけ」
    「お前らは喧嘩したらいちいち土に埋めんのかぁ!ふざけてんじゃねぇえ!」
    「未遂に終わったんだからいーだろ。先輩うるせー」
    「細かい事気にしてると禿げるよ」
    「お前らぜんっぜん反省してねえな!」

    どうしてこんな風に成長してしまったのだろう。バジルの垢を煎じて飲ませてやりたいくらいだ。いや、バジルみたいに極端になられても、それはそれで面倒ではあるが。

    「スクアーロ殿、医務室の場所を教えてもらえませんか!」

    バジルが緊迫した声を上げた。スクアーロ達のやり取り等気にも留めていないらしい。まさかこの少年はレヴィの置かれていた状況や二人が掘っていた穴等に対して、一切の疑問も沸かないのだろうか。
    もしかしてこいつ素直を通り越してただの馬鹿なんじゃ……。
    スクアーロがそんな疑念を抱いた時だった。

    「あらん、どうしたのぉ?皆揃って」

    何だか調子の良さそうな、オカマが一人やってくる。

    「ルッスーリア殿」
    「はぁい、バジル。って、あらやだん!レヴィったら、ひっどいわねぇ。なぁに、また喧嘩したの?」

    レヴィを見るなり、軽い調子できゃあきゃあ言いながら駆け寄ってくる。あまり心配しているような様子ではない。まあ、そんなもんだ。ヴァリアー内では、日常茶飯事なのだから。

    「喧嘩……?いえ、どうやら賊に襲われたようなのですが」
    「あらあら」

    とか返答しつつルッスーリアの視線は仏頂面のカナタとベルへと移っている。お見通しなのだろう。

    「仕方ないわねぇ、ほら、レヴィ。医務室行くわよ」
    「拙者もお手伝い致します」
    「良いわよぉ、一人で連れて行けるから。大体貴方、カナタに会いに来たんでしょ?」
    「なっなななな、何をおっしゃってるんですか!ルッスーリア殿!!」

    真っ赤になってうろたえるバジルに投げキッスをしてルッスーリアはさっさとレヴィを運んで行く。スクアーロの背後でカナタとベルの舌打ちする音が聞こえた。まったくもって反省の色がない。

    「え、ええと」

    困ったように呻くバジル。それを見て、今だ!と言わんばかりに顔を輝かせカナタが駆け寄った。このガキ、逃げるつもりだな。スクアーロがしかめ面になる。

    「じゃあ、バジル君。向こうでお茶でもしよっか」
    「……はい、カナタ殿」
    「う゛お゛ぉい、ちょっと待てカナタ。後でも良いからこの穴をベルと一緒に埋めとけよぉ!」
    「はぁ、知らないし。スクが邪魔したんだからスクが埋めといてよ」
    「何だと、このガキィ!!」
    「お、お二人とも落ち着いてくだい」

    途端に口論しだすスクアーロとカナタに、バジルがまごつく。それを一歩離れた所で見ていたベルは、ニヤリと笑った。

    「つーか、カス鮫先輩。バジルにカナタが取られそうだからって、邪魔すんなよな」
    「あ゛あ゛ぁ!?」
    「やだ、スクったら、そうなの?」
    「んな訳ねぇだろうがぁ!誰がこんなカス女!」
    「スクアーロ殿……そうだったのですか」
    「う゛お゛ぉい!テメェも何勘違いしてやがんだ!?」

    何やら雲行きが怪しい。バジルがなんとも言えない表情でスクアーロを見ている後ろで、カナタとベルがにやついている。このガキ共は。ほんとに。

    「スクアーロ、ごめんね。私スクアーロの気持ちには答えられないっ!」
    「知るかぁあ!んなもん答えんで良いぃ!」
    「あーあーあー、振られたからって躍起になんなよな。みっともねー」
    「なってねぇえ!テメェらいい加減にしねぇと、かっ捌くぞぉお!!」
    「きゃっ、ああっ、スクアーロ怖い!やめてっ、いやぁ」
    「へっ、変な声出すんじゃねえよぉ……」
    「あ、いや、スク。そこはちゃんとつっこんでくれないと、恥ずかしいんだけど」

    とかなんとか。ここぞとばかりにカナタとベルが騒ぎたて始める。レヴィという獲物を失い、新たな獲物を捕らえた二人の暴走は止まらない。さらに言うならばバジルの視線が物凄く痛い。

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