「カナタならさっき出て行ったよ」

    談話室につけばマーモンがそう言った。ソファに座りちゅうちゅうとストローでいちごミルクを飲んでいる。それだけ見ると可愛らしい赤ん坊ではあるが、その手前には積み重なった通帳と電卓が置いてあるので笑えない。しかしバジルには通帳が見えていないのか、マーモンが持っている紙パックを興味津々といった様子で眺めている。

    「その飲み物は何ですか?イタリアでは見かけた事がないのですが」
    「いちごミルク。僕が好きって言ったら、カナタが日本に行ったお土産に買ってきた」
    「……カナタ殿が!仲間を思い気を使う……やはり素敵な方ですね」

    バジルの目がきらきらと輝いた。マーモンが口を開けたままバジルを何秒か眺めてから、壊れた玩具のようにぎこちない動きで顔をスクアーロの方へと向けた。

    「これは一体なんなんだい」
    「病気だ。面白ぇだろぉ」
    「笑えないよ」
    「何の話ですか?」
    「こっちの話だぁ」

    不思議そうに首を傾げるバジルを脇に、スクアーロはマーモンへと問う。

    「んで、カナタは何処行ったぁ」
    「ベルと裏庭」
    「分かった。行くぞぉ」
    「待ちなよ」

    バジルを引き連れて談話室を出ようとした瞬間、マーモンが止めに入る。振り返れば、赤ん坊はバジルの方へと顔を向けていた。

    「カナタの写真、良かったら売るけど」
    「なっ……!?」
    「う゛お゛ぉい!こいつをカモんな!家光が後々出てくるかもしれねえ、面倒だろうがぁ!」
    「僕の商人魂をなめないでくれるかい。で。買うの買わないの」

    びらびらとマーモンが手中で振っている写真を見るなり、バジルは顔を赤く染め写真から目を逸らした。

    「どっ、どう見ても盗撮写真ではないですか!なんて事を……犯罪ですよ!」
    「まともな回答だぁ」
    「まとも過ぎて逆に怖いね」

    ヴァリアーではレヴィとカナタが、マーモンからザンザスの盗撮写真を売りつけられているのが日常茶飯事となっている。その為今のバジルの反応は新鮮の極みだ。そんな爽やか好青年なバジルが盗撮写真を嬉々として購入しているカナタを好きだというのだからさらに驚きだ。
    二人がUFOでも見るかのような眼つきでバジルを眺めていると、彼は真面目な表情を作りマーモンへと向き直る。

    「マーモン殿、その写真は破棄してください。カナタ殿が可哀そうです。そもそもどうしておぬしが、このような写真を持っているのですか」
    「ちょっとスクアーロ。面倒臭いからさっさと連れてってよ」

    攻め寄ってくるバジルを無視してマーモンが非難の声を上げる。自分で蒔いた種だろうに。

    「カモに出来ないと分かった途端に手のひら返し過ぎだろぉ」
    「こんな一銭の得にもならなそうな子供に興味ないよ」
    「おぬしのような赤子がこのような事を言うとは……時代がそうさせるのでしょうか。悲しい限りです」
    「うるさいよ」

    マーモンに睨まれたので、スクアーロは仕方なくバジルを引き摺って談話室を後にした。

    ***

    「あら、バジル君。いらっしゃい」
    「カナタ殿、こんにちは」

    裏庭に行くなり、スクアーロ達はカナタとベルに遭遇した。カナタを見つけた瞬間バジルの瞳は輝く。そんなバジルにカナタも優しく微笑み返し、バジルは頬をほんのりと赤く染めた。なんとも初々しいやり取りである。
    バジルの方も気にはなるのだが、スクアーロはカナタとベルのしている作業の方へと興味を持って行かれた。二人はスコップを持ち、只管裏庭に穴を掘っている。既に掘り始めて時間が経過しているのか、穴はとても大きく深いものとなっていた。この大きさならば人間一人は収まるのではないだろうか。一体これは何に使うのだろう。
    そんなスクアーロの疑問など知る由もなく、ベルは一旦手を休めてバジルに視線を寄越した。

    「お前来てたの」
    「はい。仕事で昨日から。先程終わりました」
    「ふーん」

    自分で聞いておいて興味の無さそうな声を上げたベルは、スコップを地面に捨てそのまましゃがみ込んだ。それを見てカナタは、眉をひそめる。

    「ちょっとベル、さぼらないでよ」
    「だって俺王子だし。こういう作業は似合わないじゃん?」
    「自分から言い出したのにそれはないでしょ!ちゃんと最後までやってよ!」
    「めんどくせー」

    完全に作業を続ける気がなくなったのだろう。ベルはひらひらと手を振って、カナタの非難の声を背に、少し離れた木陰の方へ進んでいった。そんな彼を見送りつつ、バジルがカナタに向き直り首を傾げる。

    「ガーデニングですか?」
    「えっ、あっ、ええと。うん、そんなところ」
    「精が出ますね」

    なんて事無いバジルの問いかけにうろたえるカナタに、スクアーロは不信感を抱いた。バジルの方は素直にカナタの言う事を真に受けており、手伝いましょうか、なんて微笑みかけている。
    何気なく木陰にいるベルの方に視線を移すと、彼は感情の無い顔でカナタとバジルのやり取りを眺めていた。

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