「うそん、あんなにボスに夢中なカナタが……」
    「う゛お゛ぉい、流石にこれは笑えねぇぞぉ……」
    「こりゃ重症だな、おい」
    「やれやれ、ヴェルデも厄介な物を作ったものだ」

    各々が戸惑いの声を上げる中、玄関の扉が開いた。
    突如、玄関ホールを威圧するような気配が襲ってくる。ああ、これは。扉に背を向けて立っていたスクアーロでも、誰が入って来たのか理解した。何故ならこの気配とは、いつも正面から向き合っているのだから。
    息を呑みつつ振り返れば、そこには予想通りの人間が立っていた。
    扉の前に立っているのは、ヴァリアーを統べる暴君のザンザスと、その幹部で崇拝者でもあるレヴィだった。
    レヴィは入ってくるなり、一直線に一同の前まで進んでくる。そして大きく手を振りかぶって声を張り上げた。

    「貴様ら、こんな所で何をしている!ボスの邪魔になる!今すぐのけ!」
    「レヴィに……ぼ、ボスゥ!?いやん、帰ってきちゃった!どうするのよ〜!」
    「ああ?俺が帰って来たら何かまずい事でもあるのか」

    不機嫌さ全開の様子で、扉前に立って一同を眺めていたザンザスがルッスーリアを睨んだ。ルッスーリアは色んな意味で顔を青くさせ慌てふためく。
    しかし運が良いのか悪いのか、ザンザスは視界にシャマルの姿を捉え、視線を彼の方へと流した。彼の注意はルッスーリアからシャマルへと移動する。

    「お、おい。もう良いだろぉ。行くぞぉ!テメェら!」

    シャマルの傍にはカナタがいる。焦ったスクアーロはさっさとその場から立ち去るよう、促した。
    しかしそう簡単にはザンザスが引き下がるわけもなく。

    「黙れ、カス鮫。引っ込んでろ。シャマル。何故テメェがここにいやがる」
    「ちょっと野暮用でな。まあ用事が済んだら直ぐ帰るさ」

    そう言って、シャマルはカナタを隠すように立った。流石に今の彼女とザンザスを対面させてはまずいと悟ったのだろう。ナイスだ、色ボケ。事情を知る面々が安堵の息を漏らすも

    「おい、カス。離れろ」

    即座にばれた。
    シャマルが半笑いになり面倒臭そうに頬をかく。軽く背後に目配せすれば、いやいやをするように首を振りカナタが白衣をぎゅっと握る。

    「いや、その用事ってのがカナタちゃんとの用事でさー」
    「テメェに用はねぇ、消えろドカスが」
    「いやいやいや、お前に用がなくても俺はカナタちゃんに用があるから」
    「こいつに用があるか無いかは俺が決める。帰れ」

    ザンザスは有無も言わせず、言い切る。彼の事だ。シャマルに対してのこの態度はカナタに好意があるというよりも、部外者が所有物に勝手に触るのに対して怒りを向けているようなものなのだろう。
    まあ、多少は、カナタに思う所があるのかもしれないけれど。

    「カナタ。いつまでひっついてやがる。さっさとそいつを追い出せ」

    なかなか動こうとしない為か、ザンザスは怒気を含ませた声でカナタに命じた。
    しかしカナタは微動だにしない。少しずつザンザスの表情が険しくなってくる。
    事情を知る者達はうろたえるが、この状況では出来る事など最早無いに等しい。
    一向に動かないカナタに腹を立てたのか、ずんずんとザンザスはシャマルの前まで進んでいった。
    無言でシャマルを押しのけ、正面からカナタと対峙する。しかし彼女は俯いて主君を見ようとはしない。

    「おい、カス。テメェかっ消されたいのか」

    苛々とした声を上げてザンザスがカナタの肩に触れた。
    その場にいた面々が、地獄絵図を頭に浮かべ、今から起こるであろうこの二人の殺し合いをどう止めるかを必死に考えだした。
    しかし。

    「……ひっ……!」
    「あぁ?」

    カナタは細かく息を吸い込み、がたがたと肩を震わせた。時折、悲鳴のような声が漏れる。どうやら叫びたいようなのだが、彼女は声すら出せないくらいにまで動揺しているらしい。身を守るように自身の体を抱きしめ、ザンザスへと向けた顔は酷く青ざめている。震えから歯を噛み合わす事が出来ないのか、口からはがちがちと歯のぶつかる音がした。

    呆気に取られているのか、ザンザスは口をあけたまま無言で彼女を眺めていた。普段なら、そんな彼の少し間の抜けた表情に誰かが笑ったりびっくりしたりする所だったが、あいにく今日その場にいた全員の視線はカナタに集中していた。
    次第にカナタの瞳は潤んでいき、溢れだすように涙がこぼれ始めた。そして、その場に崩れ落ちるように膝をつく。
    気がつけば彼女は、声にもならない声を上げ、小刻みに震えながら号泣していた。
    その場にいる全ての人間が、その状況を上手く把握できないのか、ただただ、ぼんやりと彼女を見下ろしていた。

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