――なっ。
     何で、どうして誰もいないの。ついさっきまでツナっぽい人がこっちに来てたのに。しかもすごい音がしたし、あれってぶつかっていたのは絶対に間違いない訳で。

     ――じゃあ、なんでここにツナの姿がないのだろう。

     まずい、混乱して来た。
     必死に左右を見まわして引かれたツナを探している笹川君の背中を眺めながら、眉間を抑える。これは、どういう状況だ。まるで意味が分からない。
     もしかして、歩きながら夢を見てるんじゃ、と思った瞬間、上空から微かに音が届いた。慌てて上を向くと、私達の真上をすっ飛んで行く物体が目に入る。

     それは紛れもなく。
     私達が探していたツナの姿だった。

    「って……うそぉおおおおお!? ツナァアア!?」
    「どうした!? 沢田!」
    「ご、ごめん、笹川君! ちょっと私、い、行かなきゃ……先に学校行ってて!」

     パニックになりつつも私は笹川君の返事を待たずに、ツナが飛んで行った方へと掛け出した。
     大変だ。大変という言葉では足りないくらいに大変だ。上空に吹き飛ばされる勢いでトラックにぶつかっていて、無事であるはずがない。
     大体、何で裸だったのかとか、何をあんなに叫んでいたのかとか、あのままの速度で落ちたら死んじゃうんじゃないかとか、これってひき逃げじゃないかとか、頭の中に一気に考えが浮かんで、いよいよもって頭がおかしくなりそうだった。
     兎にも角にも、冷静な判断がつかない私は、上を見ながら無我夢中でツナを追いかけるより他に選択肢は無かった。


     とはいえ。
     上空を飛ぶ人間を、入り組んだ住宅街から追いかけるのは困難な事であり。私は今、ツナを見失い一人途方に暮れていた。

    「あああ、そんな、ツナ……どうしよう!」

     色々と嫌な予感が頭をよぎり、私は腰砕けてしまう。地面にたたき付けられてトマトになる弟なんて想像しただけで血の気が引く。
     私はへろへろとその場に座り込み、どうしていいのか分からず頭を抱えた。
     どうしよう。こういう時は、とりあえず救急車を呼ぶべきだろうか、それとも警察?ああ、でも先に母さんに電話した方が良いのかな。

    「なんのこれしきぃいいいいいいい!!!」
    「へ?」

     携帯を取り出した所で再び上空からツナの声がする。慌てて上を見ると、今度は学校の方向へと飛んでいくツナの姿が。

    「なっ、なんなの、どういう事なの!?」

     ますます訳が分からない。が、こうして座ってもいられない。私は立ちあがりツナが飛んで行った方向へと再び走り始めた。


     息も絶え絶えに、やっとの事で学校までたどり着くと、そこにツナの姿があった。パンツ一枚で、校門の前に座り込んでいる。

    「ツナ!!」
    「ソラ姉!!」
    「ちょっと、大丈夫なの!? 裸で走ってると思ったらトラックにぶつかって、トラックにぶつかったと思ったら飛んでちゃって、飛んでちゃったかと思ったらまた飛んでちゃって! 大丈夫!? 怪我してない!?」
    「うわあ! 大丈夫、大丈夫だから落ち着けよ! それと、くすぐったいからあんま触るなってば!」

     やっとの事見つけたツナを逃がすまいと、しっかりと両手で掴む。そしてそのまま、怪我はないかと体中を触って調べると、ツナは顔を真っ赤にして私の手を振り払った。
     良かった、無事みたいだ。というか、無事なんてもんじゃなかった。恐ろしい事にツナは、怪我どころか、傷一つついていないのだ。確かに、怪我が無かったのは嬉しいけ ど、トラックにぶつかって無傷なんて普通では考えられる事ではない。一体どうなってるっていうんだろう。

    「あれ? 頬が腫れてるじゃない! 大丈夫? ていうか、ツナ、トラックにひかれたのにほっぺた腫れるだけで済むとかどうなってるの?もうお姉ちゃん意味が分かんないんだけど!」
    「それは俺がやった怪我だぞ」

     ツナの顔をひっつかむと同時に、前方から、可愛らしい声。ツナに手を振り払われ、声がした方を確認すれば、そこに立っていたのは黒スーツ姿の赤ん坊。

    「君、さっきうちにいた赤ちゃん!?」
    「よう、ソラ。また会ったな」

     赤ちゃん――確かリボーン君――は口の端を上げ、赤ん坊とは思えないほどニヒルな笑みをこちらに寄越した。何故ここに彼がいるのだろうか。しかも、ツナの頬の怪我は彼がやったものだとか、言っていたようなきがする。ああ、余計に頭がごちゃごちゃしてきた。考えが全くまとまらない。

    「どうして君がここにいるの? っていうか、何? ツナと君は知り合いなの?」
    「なにやってるのかな、そこ」

     私がリボーン君に疑問をぶつけると、それを邪魔するかのようなタイミングで冷たい声が割って入った。その声には聞き覚えがあり、誰かと認識した途端に嫌な汗が流れてくる。それはツナも同じなのか、微妙な表情を作り体を強張らせていた。

    「君達。もう授業が始まるんだけど」

     声のした方向へと視線をずらすと、そこには予想通りの人物が。

    「ひっ、雲雀君……!」

     風紀委員で、同時にクラスメイトでもある彼、雲雀恭弥が私たちを冷たい目で見下ろしていた。その迫力に、圧倒され、私はツナの後ろに隠れる。
     そんな事はお構いなしに、雲雀君は一歩、こちらに近づき続けた。

    「風紀委員として、このまま見過ごすわけには」
    「すっ、すみません!!」

     雲雀君の言葉を遮り、ツナは私の腕を掴み立ちあがる。
     そして大慌てで走りだしたので、私は引きずられるように校内へと連れて行かれた。



    ある日の登校風景



     デンジャラスな日常への一歩を踏み出す。

    (2011.05.03)

     top 


PageTop

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -