*ボンゴレ式修学旅行ネタ(劇中とは別の話だけど、ややネタバレ)
「お疲れ様でした」
「あ゛あ?!……ああ、ちびソラか」
スクアーロさんの場合
苛々を隠す様子もなく、殺気を放ちながらお土産コーナーに立っていたスクアーロさんに声をかける。
振り返った彼は、いつものスクアーロさんとはちょっと違い、全体的に大人な雰囲気がレベルアップしている。前髪は長いし、男の癖に何だか色っぽさもある。どことなく目付きも艶っぽい。その容姿の変化は、分かりやすく私に十年の月日を感じさせた。
落ち着きという物は相変わらず無いようで、声は馬鹿デカイのだけれど。
――っていうか。
「ちびソラってなんですか」
「ちびじゃねえかぁ」
「そりゃあ、スクアーロさんから見たら、背は低いでしょうけど」
「そう言う意味じゃねえ。俺の知ってるソラよりガキっつってんだぁ」
そう言えばスクアーロさんは「十年前だと十五歳か」と笑って、頭を乱暴に撫でてきた。何だか普段よりも優しいその対応に私はどぎまぎしてしまう。これが大人の包容力という奴なのだろうか。十年間で随分丸くなったものだ。
私は今ツナ達とボンゴレの修学旅行をしていて、温泉宿に来ている。
そこで何故かヴァリアーのメンバーと遭遇したのだが、彼らは今、十年バズーカの暴走&故障のコンボのせいで、十年後の姿でいた。十年後の彼らは白蘭のいる未来に行った時に会った事があったのだけれど、こうして落ち着いて話す機会は無かったので、何とも不思議な感じがする。
「で、何の用だあ。沢田綱吉といなくて良いのか」
「あ、そうでした。スクアーロさん達、ツナ達との勝負に負けて夕飯抜きだったじゃないですか」
「負けてねぇ」
「どっちでも良いですけど。お腹空いてるんじゃないかと思って、厨房借りてお弁当作ったんです」
持っていた重箱を持ち上げて見せる。
「ザンザスさん達にはもう配ったので、あとはスクアーロさんの分だけです。良ければどうぞ。どうせお土産のお菓子とかでお腹を満たそうと思ってたんじゃないですか?」
言えば、スクアーロさんは重箱を私の手から取り上げた。
「悪いなあ」
「いえいえ……ってちょっと、スクアーロさん!?」
スクアーロさんは空いた私の手を取ると歩き始めた。予想外の行動に目を白黒させて抗議する。
「何ですか、急に! 手! 手!」
「う゛お゛ぉい、手ぐらいで何だ。今から食うから付き合え」
「は、はあ……分かりました」
調子よく笑顔を向けられてしまい、私は流されてしまう。何だか、妙だ。スクアーロさんが、普段よりも親しげなのだ。十年経って距離が縮んだのだろうかとも思ったけれど、それとは何だか違うような気がする。
お土産コーナー脇のベンチに腰かけると、スクアーロさんはお弁当を食べ始めた。私は持っていたお茶のペットボトルを渡す。
「お前、ガキの癖に料理上手いじゃねえかぁ」
「ありがとうございます」
「昔から好きだったのか」
「はい?」
よく分からない問い掛けに首を傾げる。スクアーロさんはお茶を一口飲んで続けた。
「今のお前、あ゛あ、ややこしいな。十年後のお前は料理が趣味だとか言ってたからな」
「ああ、そう言う事でしたか。はい。料理は好きですよ。母さんとよく作ります」
「母さんなぁ」
何だか神妙な顔付きで呟くと、スクアーロさんは食べるのを再開する。
「な、何ですか。母さんと料理してたら悪いですか?」
「んな事言ってねぇだろ」
スクアーロさんが呆れたような目付きでこちらを見てくる。
「お前、奈々や沢田綱吉と殆ど会えない生活をどう思う」
「いきなりなんですか?っていうか、奈々って」
「俺がお前の母親どう呼ぼうと勝手だろ。向こうだって止めろっつってんのにスー君スー君呼びやがるしよぉ」
「スー君って」
「笑ってんじゃねえ」
母さんにスー君と呼ばれるスクアーロさんを想像したらおかしくてにやついていると、軽く頭を叩かれる。
「スクアーロさん、うちの母と仲良いんですか?」
「んな事十年経てば分かるから良いだろぉ。質問に答えろ」
「はあ」
かなり気になる所なのだが、軽く睨まれてしまいそれ以上突っ込むのは止めにする。
「母さんやツナと毎日会えない生活なんて嫌ですね」
「そうかあ。いや、そうだよな。お前ブラコンだもんなぁ」
「とは言え、父さんと会えない生活も長かったんで、耐えられない事は無いと思いますけど……っていうか、なんなんです、この質問」
「これ美味いな」
「スクアーロさん、話のそらし方下手ですね」
「うるせえぞぉ」
そう言って、スクアーロさんはお弁当を黙々と食べる。
「……あの」
「なんだあ」
「十年後の私は、イタリアにいるんですね」
「……」
「流石に気付きます。私さっき言いましたよね、ザンザスさん達にもお弁当配ったって」
「……う゛お゛ぉい、あいつら……」
「スクアーロさん、結婚指輪してるし」
「お前、相手はもっと慎重に選んだ方が良いぞぉ」
「そうですね」
「……」
「私がツナ達と離れるなんて相当の事ですよ」
「ブラコンだもんな」
「……ブラコンはともかく。ツナ達から離れた。それがさっきの答えですよ」
「あ゛あ?」
「そっかあ、片想いじゃなくなるのかあ。そう思うと、これからも頑張れそうな気がします」
「……」
「でもロリコンだったんですね……嬉しいけどちょっとショックです」
「違え!んな訳ねぇだろ!テメェが跳ね馬なんかに相談しやがったせいで、あいつが大騒ぎしだして、何か余計なお節介焼いた九代目まで出てくるし、家光には睨まれるし、クソボスはツボって爆笑して跳ね馬の好きにさせるし、ベル達には俺の気持ちは完全無視でロリコン扱いされるわ、跳ね馬は俺の妹分なんだから大切にしてやれとか付き合ってる訳じゃねえのに本当ウザイわ、沢田綱吉の奴は姉さんを傷付けたら許しませんとか笑顔で凄んで来てウゼェしで」
「つまり状況に流された訳ですか」
「お前は跳ね馬に相談したのを後悔してたし、いつも申し訳なさそうにして俺の味方でいたから嫌いではなかった」
「流されたんですね」
「おい、その目止めろ。幾ら周りが騒いだ所で好きじゃなきゃ受け入れねぇよ。今の俺は間違いなくソラを愛してるんだから良いだろぉ」
「……」
「顔赤いぞぉ」
「スクアーロさんがさらりと変な事言うから!」
「う゛お゛ぉい! 何が変なんだぁ!? 普通だろぉ!」
「スクアーロさんも所詮イタリア男なんですね」
「おい、何だそれ。何が不満なんだ」
「はあ。でも、ツナってば、男らしく成長するみたいで安心しました」
「そこか」
気が付けばスクアーロさんはお弁当を食べ終わっていて、容器をこちらに渡してくる。義手の薬指に、手袋の上からつけられたリングが、きらりと輝いた。