持田君の場合
私は今、持田と二人でショッピングに来ている。
女の子が好きそうなファンシー系の雑貨が並ぶ店内で、持田は落ち着きなく周囲を見渡している。
「持田、やめて。みっともない。気持ち悪い」
「ぐっ……! 気持ち悪いは言い過ぎだろ! お前俺に何か恨みでも」
「ツナをいじめた」
「うっ」
持田は押し黙って、傍にあったオルゴールの蓋を指でつついた。
「持田。汚い手で商品触らない」
「俺の手は汚くない!」
「そうなの? 何か、ぬるぬるしてそうなイメージが……」
「おい沢田。いい加減泣くぞ」
流石に泣かれては困るので、私は追撃するのを止めた。
「さて、京子は何が好きかなー」
だらしのない笑みを浮かべて持田が放つ言葉に、今度は私が泣きそうになった。
私は今、持田が京子ちゃんの誕生日プレゼントを選ぶのに付き合っている。彼曰く、一人でこんな店入れない、との事らしい。非常に残念な事に、この男に好意を抱いている私は、付いてきてくれと頼まれ二つ返事で了承してしまい現在に至る。
私の気持ちを知っている笹川君が、俺も行こうかと言ってくれたが、ボクシングの試合が近い彼を連れていく訳にもいかないので丁重に断った。京子ちゃんの兄であり、持田の友達であり、私の友達でもある彼は、ややこしいこの関係にちょっと思う所があるらしい。
「京子はこれとか好きそうだな」
持田がくまのぬいぐるみを手にとる。ぬいぐるみとは子供っぽいが、そのくまさんは可愛らしいくて、京子ちゃんのイメージにはピッタリだった。
「確かに、可愛いね。でも持田が持つとくまが汚れる」
「お前は、なんでそこまで毒舌なんだ。このままだと嫁の貰い手ないぞ。京子を見習え」
持田がくまを抱き締めながら抗議する。気持ち悪い。
そして嫁の貰い手がないとか、持田には言われたくない。悔しいことに私は持田が好きなので、出来れば持田に貰ってほしい。と、同時に死んでもこいつとは付き合いたくないという気持ちもある。
なんでこんな奴が好きなんだろうか。自分が情けない。
「別に嫁に行けなくても良いよ。ていうか持田、京子ちゃんをお嫁に貰うつもりになってない?」
「当然だろう、京子を嫁にするのは俺だ」
何とも良い笑顔を返してくる。その自信はどこから来るんだ。気持ちが悪い。
そして嫉妬する気持ちを抜きにしても、持田には京子ちゃんを嫁には出来ないだろうと思った。
「ていうか、京子ちゃんはうちのお嫁に来るから。持田は眼中にないから」
「なっ、なんだと!?」
「ツナと京子ちゃんを賭けて勝負したのはそっちでしょ。あきらめなよ。しつこいなあ」
「うっ……」
再び押し黙り持田はオルゴールをつついた。私は無言でその手を払う。持田は、はっ、と口を開きこっちを見て何か言おうとして、でも口を閉じ肩を落とした。
なんなんだ一体。
「それに京子ちゃんの周りは只でさえイケメンが多いのに、持田なんかに目が行く訳ないじゃない」
私は好きだけど。
「俺もイケメンだろう」
「え? 本気で言ってるの?」
私が呆れて持田を見ると、えっ? とか言いながら困惑した表情を返してくる。本気か。これは重症だ。
「まあでも、確かにイケメン多いよな。京子の周りっていうかお前の周り。しかも外国人ばっかり」
「そうだね」
「沢田はあれだな。あの金髪の優男とか好きそうだ」
「ディーノさん?」
「名前なんか知る訳ないだろう」
また持田がオルゴールを触るのでその手を払う。持田はまた、はっ、と口を開いてこちらを見てから、肩を落とした。だから何だ。
「まあでも、お前笹川が好きだからあれはないか」
「は?」
私は自分の耳を疑った。誰が誰を好きだって?
私が目を見開いて持田を見ていると、持田は妙に格好つけながら続けた。
「流石に俺でも気付くぜ。いつもお前らの横にいるからな。良いんだ、照れるな照れるな。俺は分かってるからな。遠慮せず相談してくれて良いんだぞ」
何言ってるの、こいつ。
「何で、そう思ったの」
「お前らいつも二人でこそこそやってるだろう。お前から笹川を引っ張って何か、神妙な顔付きで話してるの知ってるんだぞ」
「……」
「俺はごみのように扱う癖に、笹川には妙に優しいしなあ」
「……」
「この格好良い俺じゃなく笹川とは趣味が悪いが、まあ良いんじゃないか。お前ら、お似合いだと思うぞ」
その時私の中で、何かが音を立てて切れた。ふつふつと腹の内から何かが沸き上がって来て爆発する。