「ソラ姉〜お客さんがきてるよー」

     部屋の外からフゥ太君の声がする。でも私は出る事が出来ない。

    「姉さん、姉さん、頼むから早く出て来てよ!」

     部屋の外からツナの声がする。でも私は出る事が出来ない。

    「おい、ソラ。閉じこもってた所で、最終的にお前に待ってるのは死だけだぞ」
    「い、嫌だよ!出ない!絶対出ません!未来に戻るまで私引きこもる!」

     止めのリボーン君の言葉に泣き叫ぶと、部屋の外からしていた声が止んだ。「でもそれ、結局は未来で白蘭を倒したらこっちに戻ってくるから意味なくない?」とか呟く声がしたけど、この際聞こえなかった事にする。

     結論から言うと、私はあの後ベル君に会った。というか、ずっとベル君と一緒にいた。未来から戻って来て、その日の放課後からずっと彼と一緒にいて、次の日の休日も彼と過ごしていた。
     簡単な話。針山姫子なんて、存在しなかった。彼女こそが、ベル君だったのだ。
     そりゃそうだ。しししっとか笑ったり、姫って呼んで!と強要したり、ボーダー柄のシャツばっか着ているような人が、そう何人もいてもらっちゃ困る。とはいえ、ベル君は男の子であるから、女の子だった姫ちゃんをベル君だと疑えと言うのが無理な話だ。だって、手をつないだ時とか、腕を引っ張られた時、かるーく押し当てられた胸の感触とか、絶対女の子の物だったし、そんなことされたら男だと思う訳ないでしょう。しかも絶対私のより大きかった。それはともかく。
     男だの女だのと言った件の種明かしは簡単なものだ。針山紋太君が、マーモンちゃんだったのだ。全ては彼の幻術だった。そもそも、アルコバレーノの試練という時点で、マーモンちゃんが来るのは確定していた訳だし、マーモンちゃんが来るなら、面白がってベル君が付いてきてもおかしくない。そう言った可能性が浮かばなかったのは、完全に私が失念していたとしか言いようがない。
     私達が休日ベル君に誘い出されたのは、実はマーモンちゃんの試練に利用する為だった。京子ちゃんと私を人質に取り、ツナ達にルールを付け試練を与えていたのである。とはいえ、手荒な真似をするつもりは無かったらしく、試練が終わるまでベル君が私達を引きつけておいて、ツナ達の試練が終わる頃には、私達二人には種明かしもせず、何事も無かったかのように解放するつもりだったらしい。
     では何故、私がベル君の正体に気づいてしまったか――だが。
     あの後急に、京子ちゃんが笹川君の心配をし始めた。何か感じる所があったらしく、彼を探して街中を走って行ってしまったのだ。それを姫ちゃんと私で追いかけていたら、丁度マーモンちゃんの試練に出くわしてしまった。マーモンちゃんの放った攻撃の流れ弾がこちらに向かって来た所で、姫ちゃんが私達を守ったのだ。
     ナイフで。
     ベル君の。あのナイフで。
     そこからは私にしたら、悪夢のようだった。
     あ、もしかして、と思ったら、山本君が「これはヴァリアーの……」とか呟いて、それに答えるように姫ちゃんが、しししと笑って。瞬間、弾けるように私は、その場から逃げだしていた。絶叫して。頭を抱えながら。無我夢中で家に飛び込んだ。自分の部屋に閉て込んでいる所で、外から来たツナに詳しい状況を聞いた。

     そして現在に至る。

     私、姫ちゃんに何を話したっけ。初恋の人がうんたらとか言ったよね。ボーダー柄シャツ着てる怖い人とか言ったよね。よく分からないけど、会いたいんだよねとか言ってしまったような。それも全部本人に。

    「ううっ、死にたいっ、死んでしまいたい!」
    「うわああん!ソラ姉!死んじゃ嫌だよお!」

     私が叫ぶと、部屋の外からフゥ太君の泣き声が聞こえてくる。「まるでダメツナだな」とか「どういう意味だよ!リボーン!」とかどうでも良いやりとりが耳に入って来て私は枕に顔を突っ込んだ。
     まだ、先程上げた告白まがいの会話は良い。全然良くないけれど、この際良いとしよう。問題は他だ。私は、告白以上に酷い失言を彼の前でしてしまった。

     ――二人で会う事は絶対ないよ。私も二人で会うのは怖いからやだ。
     ――怖いよ、すっごい怖いよ。完全に異常者だもん。
     ――私達くらいの年の、黒コートでボーダー柄のシャツ着て金髪で目元が隠れるぐらい長い前髪の変なティアラかぶってる明らか変質者な人
    「ひぃいいいい!最初の二つはまだ何とかなるにしても、最後のはヤバイでしょ!フォロー不可能だよ!本人がいないのを良い事に、本人の前で何言ってるの私!」
    「ちょっとソラ姉!何一人ツッコミしてんの!?しかも意味不明だし!大丈夫なの?大丈夫なの!?」
    「うわぁああん、ツナ兄〜、ソラ姉がおかしくなっちゃったよお〜」

     私が叫ぶと、たちまち部屋の外が賑やかになる。落ち着こう。少し冷静になろう。
     とりあえず、ベッドの上で軽く深呼吸をする。
     段々と落ち着いてきた私の耳に、誰かが階段を上がってくる音が聞こえて来た。

    「あ、京子ちゃん」

     ツナの声。

    「ソラさん。あの、大丈夫ですか?急に走って行っちゃったから心配で」

     部屋の外から、京子ちゃんの声が聞こえてくる。
     布団をかぶったまま、ゆっくりとドアに近づいていき、聞き耳を立てた。

    「きょ、京子ちゃん……そこにベル君……えーと、姫ちゃんはいたりする?」
    「え?姫ちゃんは帰っちゃいましたよ」

     京子ちゃんの言葉を聞き、私は用心してドアに耳をくっつけ様子を伺う。特に音はしない。ただ、ツナの重苦しい溜息だけが聞こえて来た。
     京子ちゃんを部屋の前で立たせっぱなしにするのも可哀想なので、部屋の内鍵を解除してドアを開く。

    「わざわざごめんね京子ちゃ」
    「ったく、開けるのが、おせーよ」

     金髪が目に入った瞬間、私は再びドアを閉じた。

    「テメッ、マジふざけんな」
    「ひぃいいいいいい!!!」

     瞬時にベル君が足を滑りこませて阻止してくる。しかしこのまま部屋に入れる訳にもいかないので、私は必死にドアを抑えた。

    「なんで、京子ちゃんの声がしたのにベル君がいるの!?」
    「君って忘れるの早いよね。ベルは僕のおまけで来たのをもう忘れたの?」
    「ママママママーモンちゃん!!」
    「しししっ、お前本当馬鹿だよな。ガキの頃から脳味噌働いて無いんじゃねーの」
    「ほっといてください!」

     言い争っている内に、どんどんとドアがこじ開けられていく。女の力じゃ男に敵うはずがない。ただでさえ私は一般人で、ベル君はヴァリアーの幹部。力の差なんて考えるまでも無い。
     私はベル君の背後にいるツナを睨みつけた。

    「この裏切り者!姉を売るなんて信じられない!」
    「む、無茶言うなよ!この二人が家の前で陣取ってるんだぞ!こっちの身にもなれよ!」
    「姉が死んでも良いって言うの!?」
    「へーきへーき。俺達ヴァリアーは今、謹慎中だし、家光のガキなんか殺したら面倒な事になるし、殺しはしないから、殺しは」
    「平気じゃない!全然平気じゃない!悪意を感じた!今、ベル君から物凄い悪意を感じました!」
    「お前うるせー、いい加減にしろ」

     その言葉と共に、ドアが完全にこじ開けられた。

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