私は人に言いたい事をはっきりと言う方で、引っ込み思案という訳ではない。後悔するくらいなら真っ先に行動するタイプだし、行動力はある方だと思ってた。

    今年の4月までは。

    笹川君を好きになってからと言うもの、私はすっかり変わってしまった。今の私は笹川君の事になると、途端に臆病になり言いたい事も言えなくなるし、簡単な行動も実行へ移せない。おはようとか、また明日とか、そんな言葉を交わすだけですごく緊張する。些細な事が気になったり、くだらない事でうじうじ悩んだり、すぐめそめそしてしまう。去年の私が見たらきっと呆れてしまうに違いない。
    こんな私、嫌だ。笹川君をどんどん好きになっていくのに比例して、自分の事がどんどん嫌いになっていく。かと言って、笹川君を好きになったのを後悔するかと聞かれれば答えはNOだ。笹川君の素敵な一面も知る事が出来たし、彼と話してると少しの事でも凄く幸せになれるし、こんな気持ちを知らないまま過ごすなんて、今更考えたくない。
    そんな訳で最終的に考えは、恋愛って面倒くさい。という所に落ち着く。

    「はぁ……」

    とぼとぼと帰り道を歩きながら、本日何度目かの溜め息が漏れた。どうにも今朝のあれが堪えている。笹川君に、沢田姉と呼ばれた一件だ。
    はっきり言ってショックだった。同級生の女子から一気に沢田綱吉の姉まで降格したような気がした。急に距離が遠くなったような、そんな感じを覚えた。寂しかった。
    とは言え、笹川君の事だ。深く考えずにとった行動だと、心の内では私も分かっている。
    きっと先にツナを沢田と呼んでしまったから、ごっちゃにならないよう後に話しかけた私を沢田姉と呼んだのだろう。多分、先に私が話しかけていたら私を沢田と呼んだだろうし、ツナには沢田弟と声を掛けたに違いない。だからあの後に学校ですれ違ったりすれば、きっと沢田!って私を呼ぶんだと思う。
    そう、頭では分かってる。なのにダメなのだ。でも、とか、もし、とか考えてしまう。でも本当は笹川君が私を嫌いだから沢田姉なんて呼んだんじゃ?とか。もしかして私の事なんか友達とも思ってないんじゃない?とか、そんなネガティブな考えだ。後ろ向きにも程がある。
    悩むくらいなら、ややこしいから私の事は名前で呼んでね、の一言でも告げれば良いのだ。それさえ言えれば今の悩みなんか全部解決する。そんな簡単な話なのに、私は。

    「あー!もう嫌だー!」
    「うわ!」

    むしゃくしゃして来て思いきり叫ぶと背後から声が返って来た。何かと振り返って見ればタバコをくわえぽかんとした様子の少年が立っている。

    「ごっ、獄寺君!」
    「あ、どうも。姿が見えたので、今声をかけようとしてたんすけど、何かあったんすか?」

    どうやら私の叫びは、ばっちり聞こえていたらしい。は、恥ずかしい。普段から独り言を喋ってる奴とか誤解されてなければ良いけど。……まあ、割と言ってるような気もするから間違いではないか。
    なんて考え込んでいたら、獄寺君は不思議そうな顔をして私を見つめてきた。

    「ソラさん?」

    ソラさん。
    ああ、そう。そうだった。獄寺君にはお姉様って呼ぶのはやめてって言って私の事を名前で呼ぶようにさせたのに、どうして同じ事が笹川君には出来ないんだろうか。

    「ちょっと悩んでる事があって」
    「トラブルっすか?なんなら俺がかたを」
    「ううん、自分じゃないと解決出来ないっていうか、単なる私のワガママなの」
    「ワガママ……ですか?」

    再び不思議そうな顔をする獄寺君。

    「なんていうか、こうして欲しいなあって思う通りに相手がしてくれなくて、でも直接頼む事も出来なくてもやもやしてるっていうか」
    「はあ。よく分かんないっすけど、俺が代わりに頼んで来ましょうか」
    「それじゃあ駄目なんだよね」

    私が苦笑すると獄寺君は難しい顔をしてむうと唸った。無理もない。こんな説明では訳が分からない事だろう。

    「なんかややこしそうな感じですね」
    「そんなややこしい話でもないんだけど……なんていうか、ええと」

    何か上手い例え話でもないものだろうか。なんとも難しい。

    「獄寺君、急にツナからビアンキ弟って呼ばれるようになったらどうする?」
    「ええっ!?」

    途端に獄寺君が目を見開き青ざめた。そのまま俯き、苦悶の表情を浮かべている。

    「お、俺に何か至らぬ点があったか十代目にお伺いします……!」
    「えー、何の事?って言われたら?」
    「えっ?」
    「特に理由もなく、ビアンキ弟だったらどうする?」
    「え、いや、その」

    おろおろと視線を漂わせる。獄寺君の眉間にきつく皺が寄った。

    「……そんな、十代目……!何故……!!」
    「あ、ごめんなさい。そんなに考え込まないで」

    頭を抱え込み本格的に獄寺君が悩み始めた所で、制止に入る。何て素直な子なんだろうか。例え話でこんなに思い詰めるとは驚きだ。っていうか、激しく罪悪感が沸くんですけど。

    「……獄寺君はツナに意見しないの?」
    「意見なんて、そんな……十代目がお考えになった事に文句をつけるなんて……ぐっ、しかし、嫌っす!激しく嫌です!でも、文句なんて、そんな、やっぱり俺に何か至らぬ点があったに違いない、ああああ!俺はどうしたら!」
    「ご、ごめんね、ごめん、落ち着いて。ツナは絶対にそんな呼び方しないから悩まなくて大丈夫だよ」
    「ほんとっすか?」
    「本当だよ」

    そんな呼び方、ツナなら後を怖がってする訳が無い。私のそんな考えなど露知らず、獄寺君は曇らせていた表情を一変させ、ぱーっと明るくさせた。表情がころころ変わる子だ。ここまで来ると何だか面白くなってくる。
    って、違う違う。今は獄寺君で遊んでいる場合じゃないのだ。

    「えーと、まあ。私の悩み事はそんな感じの事なんです」
    「……それは……さぞお辛いんでしょうね……!十代目のような偉大な弟を持つと……こういった問題も生まれてくるのでしょう……!」

    獄寺君が噛み締めるように言った。


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