「ソラ」
「どうしたの、了平君。練習しないの?」
「いや、練習を見ていてお前は楽しいのかと思ってな。別に無理して見に来なくても良いぞ」
「了平君にしては自信ないね。ボクシングの事なのに」
「興味を持ってくれるのは嬉しいが、どうもお前は京子と似ている所があるからな。ボクシングが何なのか分かっていなさそうな気がしてならんのだが」
「確かに私、ボクシングファンとしては素人だなあ」
「そうか」
「でも見てて分かったのは、了平君がインファイターだって事かなあ」
「うむ」
「ショートよりミドルレンジタイプだよね。正直力任せのごり押しかと思ったんだけど、テクニックもしっかりしてるしファイターとの距離を作るのが上手だなって思った。あ、それと近距離でショートのワンツーを打ったり、了平君って結構テクニシャンだよね。ショートパンチ連打って難しいんでしょ?」
「う、うむ」
「上半身だけじゃなく、下半身も結構鍛えてるよね。懐に入り込むスピードが早くてびっくりしちゃった。動きが派手だから素人目から見ても面白いし、見てて楽しいから気にしなくて良いよ」
「……」
「でも撃たれ過ぎな所があるから、見てて不安になるなあ……パンチドランカーにならないように気をつけてね」
「ああ、気をつける」
「……」
「……」
***
「って事があったの、持田」
「沢田ってボクシング好きだったんだな」
「女子マネになろうかな、何て思って勉強したの。で、気づいたらハマってたの!」
「ハマったのか。良かったじゃないか。で、女子マネになったのか」
「何か恥ずかしくて言えなかった。了平君が打たれてるの見るのも辛いし」
「何だそれ。何でそれを俺に言うんだよ、うざいぞ。いっそのことお前、剣道部の女子マネになれよ」
「持田が殴られるのを見るのは好きだけど、剣道部の女子マネになるのは死んでも嫌」
「ひでぇ」
***
「という事があったんだ、持田」
「へー。ボクシング好きが増えて良かったな、笹川」
「やはりマネージャーに勧誘すべきだったのだろうか!?」
「勧誘しときゃ良かったとか思うなら、すれば良いじゃん。他の奴は強引に勧誘するくせになんだよ」
「なんというか、アイツは試合を見に来ると、いつも涙目になっているのだ。マネージャーになれば毎回試合を観に来るようになる。その度に泣かれたら正直俺も辛い」
「………………」
「持田、どうした」
「断言する。今一番辛い気持ちをしているのは俺だ」
「何だ、何があった」
「お前ら二人、雲雀に咬み殺されてしまえ!うわあああああああっ」
「よく分からんが、落ち着け!持田!」
「落ち着いて欲しいなら、今すぐ京子を嫁にくれ!」
「断固拒否する」
「甘酸っぺえぜ」
(2011.05.29)